骨折した足には障害が残っていて…動けなくなりやっと動物病院に連れて行けた猫、新たな病も発覚

小宮 みぎわ 小宮 みぎわ

その猫は、とにかく痩せて汚れていて、うっすら悪臭を放つ状態でした。全く動かず眼は虚ろ、沈鬱でしたが、触ると激しく怒りました。

連れてきたAさんによると、その猫は去年の秋に、Aさんの家の玄関に現れました。生後6か月程度だったようです。痩せて小柄なその猫はじっとして動かず、追い払ってもすぐに玄関前に戻って来てしまいました。どうも左の後ろ足が使えないようでした。

家の中で2匹の猫を飼っているAさんが猫のご飯を与えたところ、以来ときどき家にやってくるようになりました。Aさんは、ちいた君と呼ぶことにしました。

最初は触っても怒らなかったのですが、いつからか近づくと威嚇して猫パンチを出すようになりました。人間の動きを攻撃と解釈してしまうようでした。ご飯を出すときも素早く手を引っ込めないと、血を見ることになりました。足のことも気になっていましたが、捕まえて動物病院に連れて行くことなどは、出来ないままでいました。

ところが最近、とても大柄な強面の猫がAさんの家にやってきて、ちいた君のご飯を横取りするようになりました。ちいた君は、すぐけんかに負けてしまい、ご飯にありつくことができません。

そんな状態が1―2カ月続いたある日、とうとうちいた君はげっそり痩せて家の前でうずくまっていました。今回は、ご飯を与えても臭いを嗅ぐだけで食べないどころか、吐くような仕草を何度もしました。ふらふらになって、やっとキャリーケースに入れることができ、動物病院に連れて来られたのでした。

  ◇   ◇

Aさんは『いろいろ調べて、元気にしてやってください。他の猫にうつるような病気を持っていなければ、うちで飼います』とおっしゃいました。

調べてみると、ちいた君は非常に痩せていて、成長不良でした。そして左の大腿骨は、以前骨折して自然に癒合(離れてしまった骨がくっついてつながること)したようでした。

猫が骨折する原因は、大抵は交通事故です。当初ちいた君は、Aさんの家の玄関にとどまっていたといいますが、事故に遭ってまもなく、痛みと飢えで動けないでいたのではないでしょうか。そして、Aさんにご飯をもらい、なんとか骨折が治ったけれども、障害のある足では素早い動きはできず、ネズミや小動物を採って食べることもままならなかったのでしょう。

ちいた君の足のレントゲンをみると、骨折はかなり激しいものだったことがわかりました。「骨がバラバラに砕けたまま、がっちり固まってひとつの骨になっていました。これでよくつながったなぁ…と思いました。

ちいた君は身体が臭かったので、全身を触診しました。猫同士がけんかして咬まれた後、膿がたまると独特の臭いがするのですが、ちいた君の臭いはそれでした。

後ろ足には怪我をして治りつつある傷跡がありましたので、例の大柄な猫に咬まれて膿んで、治ってきているところと推測しました。傷を癒すのに消耗し、その間ご飯が食べられなかったことで全身状態が悪くなっていたのでしょう。

貧血や肝臓や腎臓の機能をみる血液検査には、とりたてて異常はありませんでした。しかし、とても悲しいことに、猫白血病ウイルスに感染していました。

猫白血病ウイルスは、猫同士が毛繕いをしたり、一緒にご飯を食べたりして、唾液や鼻水に触れると、感染するとされています。そして、猫白血病に感染して身体から排除できずに持続的に感染が起こると、主に『がん』を発症して亡くなってしまいます。幼い頃に猫白血病にかかった猫の平均寿命は2.4歳という報告があります。

ちいた君を診ている間、とても他人事とは思えず、悲しい気持ちになりました。うちで飼っている猫も、一昨年の秋に、ひどい骨盤骨折で便がでず、衰弱しているところを保護されたのです。幸運にも、今は家の中でぬくぬくと暮らしていますが、発見されていなければ、ちいた君のようになっていたのかもしれないのです。

ちいた君は、結局、猫白血病にかかっているので、Aさんの飼っている猫ちゃん達と一緒に暮らすことにはなりませんでした。今は、別の部屋のケージに入っています。ちいた君はおよそ1歳になりました。平均寿命はの2.4年まであと1年とちょっとです…残りの猫生は、少しでも穏やかに暮らしてほしいと願うばかりです。

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