骨盤骨折で重い排便障害になった子猫 手術を受けさせるために病院から“誘拐”…今は元気に

小宮 みぎわ 小宮 みぎわ

ハク太郎は推定2歳のオッドアイの白猫です。私が獣医師として勤務している動物病院の同僚看護師の自宅で保護されました。早朝、エアコンの室外機と建物の間に挟まり、激しく泣き続けていたそうです。保護された時は、約2カ月齢ほどでしょうか。そのまま動物病院へ連れてこられましたが、泥だらけでまっ茶っ茶で痩せこけていて、冴えない顔をしていました。

当初は下痢便をしていたので気づかなかったのですが、正常便に戻った後、今度は便が出なくなり、もがき苦しみだしました。歩き方も異常を感じたのでレントゲンを撮ってみると、骨盤と大腿骨の接合部分(寛骨臼)の周囲が骨折してしまい深く陥没していました。正常な骨盤はちょうど、直腸を包み込むような筒状になっているのですが、その筒の一箇所が陥没して、直腸の内径を狭めていました。

屋外にいる子猫や若い猫の骨盤骨折は、比較的よくあることです。多くは交通事故によるものです。ただ、その場合は骨折付近の皮膚に皮下出血や擦り傷や、車で飛ばされて着地した時に起こる足先の擦りむきや爪の破折などが見られるはずですが、ハク太郎にはありませんでした。ただただ右の寛骨臼だけが骨折、陥没していたのです。もしかしたら虐待なのかも…?とは思いましたが、ハク太郎がその時のことを話してくれる訳ではないので、事実は闇の中です。

猫が骨盤骨折すると、便が出にくい…排便障害が問題になります。排便障害がなければ長い時間をかけて骨がつながることも多いため、無治療で経過観察することもあります。しかし、ハク太郎の様子では、どうしても手術が必要でした。

しかし、骨盤骨折の手術は、大変な手術です。約2カ月齢という成長期の子猫ということも難易度を上げました。猫の骨盤骨折の治療には、折れたところにプレートという金属の板をあてて骨盤の骨をネジで固定するという手術をする場合が一般的です。しかし、子猫の場合、骨盤を構成する骨が成長して大きくなるので、プレートが骨の成長に悪影響を与える可能性があるのです。

便が出ないことに関しては、対症療法がありました。お腹の中の便を我々人間の手で押し出すという方法です。(例えが悪いですが)ちょうど生クリームをケーキの上にデコレーションする時のようにお腹を揉んで絞り出します。スムーズに絞り出すために、わざと便を柔らかくさせる薬を飲ませることもあります。

勤務先の院長先生は、『手術は難しいのでうちでは出来ない。定期的にスタッフが便を出して生活してもらおう。ちょうど供血猫がいないので、病院の供血猫として飼おう』と言い出しました。

私はとても心が苦しくなりました。手術をしない選択をするならば、この猫は一生、柔らかい便にさせられ、便を絞り出されながら生活をすることになります。まだ3カ月齢にも満たない子猫が、これから10年以上送るであろう生涯を、ずっと人間に便を出してもらいながら生活するなんて!!

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