奈良県でこのほど新種の昆虫が見つかり、日本名として「バースクシモモタマキノコムシ」(学名・Triarthron itoi)と名付けられた。「えっ、バース?」。その名前を聞いて敏感に反応するのは、阪神ファンに間違いないだろう。史上最強助っ人「ランディ・バース」にちなみ「バース」の入った名前が付けられたのだ。でもなぜ虫の名前にバースの名が?名付け親の福井大学教育学部准教授の保科英人さんに命名の理由を聞いた。
新種はタマキノコムシ科クシモモタマキノコムシ属に属するする茶色の虫で、体長4.8ミリ程度の大きさ。世界で1匹しか獲れていない。大阪市立自然史博物館に保管されていた標本から発見された。国際学術誌「ZooKeys」に新種であることを明らかにした保科さんの論文が4日に発表された。この属では世界で3番目という珍しい種で、3種のうち、1種は北アメリカ、もう1種はユーラシア大陸と日本、そして、今回の3種目が日本だけに生息している。他の2種は3―3.5ミリ程度の大きさしかないので今回の新種は、明らかに体が大きい。
ちなみに学名とは、論文が出たことで、それが証明となる。「論文が出る=その新種の学名が確定する」と生物学の世界の国際ルールで定められている。一方、日本語名(=和名)に関しては、慣例的に用いられている生物名で、今回の「バース」については保科さんが9月に日本語でこの新種の解説報文を執筆する予定となっており、日本名「バース」が“確約”されているというわけだ。
ランディ・バースは2度の三冠王に輝き、1985年阪神日本一の立役者の一人。同年の巨人戦で3番・バース、4番・掛布、5番・岡田が放ったバックスクリーン3連発は阪神ファンの記憶に刻まれている。1986年に記録した打率.389はいまも破られていない。
――どうしてバースと名付けたのでしょうか?
「新種は、クシモモタマキノコムシ属としては世界で3番目の種、そして体が大きいことから、その新種の日本語名は、かのタイガースの3番打者の『バース』しかないだろうと考え、『バースクシモモタマキノコムシ』と命名しました」
――つまり、保科さんが阪神ファンだったから…?
「はい。神戸生まれで、亡き父は阪神ファンというより筋金入りのアンチ巨人でした。そのような環境に育った私は1985年、中1のときに阪神の優勝を経験しました。優勝直後、三宮センター街で所狭しと阪神グッズが売られていたことを鮮明に覚えています。高校進学で神戸を離れたことで、かえって自分は関西人、阪神を応援せねば、と変な義務感を抱くようになりました。だから今も家電やガンプラはジョーシン(関西資本の家電量販店、テレビCMに阪神選手を起用)で買うほどです」
――新種は通常、発見者の人の名前が入るものではないのでしょうか?
「学名は万国共通のもので今回の新種はTriarthron itoiです。itoi の部分が野外でこの虫を採集した人になります。国際動物命名規約という国際ルールで決まっています。ただし、日本語名は慣例的に用いられている生物名なので、規約も証明も一切ありません。今年9月に日本語でこの新種の解説報文を書く予定ですので、それが一応紙媒体上で、最初に登場する『バース』になります」
――なるほど、ということはこのグループの虫に4番目、5番目の新種が見つかったら、もしかして…
「見つかるかどうかは分かりませんが、順番にカケフ、オカダと名付けたいですね」