謎の宅配業者「べる運送」に5歳児興奮「サンタさんみたい」 コロナで自粛生活中…ママは「救われた」

金井 かおる 金井 かおる

 コロナで多くの図書館が休館となった5月。兵庫県内の読者から質問が寄せられました。

 「図書館に絵本の配達を頼んだら『べる運送』という聞いたことがない名前で届きました。ご存じですか?」

 ネットで検索するも検索結果はゼロ。正体を調べました。

おうち時間に絵本を

 絵本の配達とは、明石市立図書館(兵庫県明石市)が4月25日から5月19日まで期間限定で実施した「絵本の宅配便」のこと。「図書館が休館中でも絵本を通じて楽しい親子の時間を過ごしてほしい」という思いから明石市長が発案しました。

 対象は明石市内の未就学児。同館の絵本の蔵書約52000冊の中から5冊が無料で届けられます。絵本のタイトルはリクエストしてもよし、図書館司書にセレクトを任せてもよし。本の消毒や対面なしの「置き配」など、コロナ対策も万全のサービスです。

「サンタさんみたい」

 質問をくれた読者は5歳児のママ。「福袋みたいで楽しみが増える」と司書による選書コースを選択したそうです。配達当日、インターホンが鳴り扉を開けると、玄関脇に茶色い包みが置かれていました。

 「図書館から絵本が届くことは子どもも知っていたのですが、配達員さんの姿は見えないのに大きな包みがあり、子どもは『サンタさんみたい』と喜んでいました。届いたのは全部読んだことのない絵本でした。『ママ、続きを借りて!』とせがまれています」(読者)

「手紙に大人も救われた」

 絵本に添えられていた手紙を見せてもらいました。

 〈今回お届けした資料は べる運送 が集めました。感想を聞かせてもらえればうれしいです〉

 -5歳児には難しい漢字が並んでいますね。

 「もしかしたら、図書館スタッフさんから保護者向けのシャレでしょうか。読んでホッとしたんですよ」

 -というと?

 「コロナへの緊張感とか、何日も家に閉じこもっているストレスとか、子どもと24時間接する疲れとか、私のストレスが一瞬ほぐれました。『べる運送って何だろう? 誰だろう?』と気分転換になりました。もしこれが保護者あての『ちょっとだけ笑ってください』という仕掛けだとしたら、すごく救われました」

申し込み件数は750件

 担当した明石市政策局本のまち推進室に話を聞きました。

 -反響はいかがでしたか?

 「申し込み件数は全部で750件でした。1日に84件という日もありました」

 -すごい数ですね。利用者からの反応は?

 「市役所と図書館には〈コロナで大変な中、本当にありがとうございます〉〈家にある本やおもちゃだけでは限界がきていたので助かります〉〈丁寧に包まれた本を見て、職員の方々の温かいお心を感じ、涙が出ました〉〈お仕事大変ですが頑張ってください〉など、お礼の手紙や声がたくさん届いています。中にはお子さんによるイラスト付きの手紙もありました」

「べる運送」種明かし

 では宅配業者の正体は? 実は、絵本は市の職員ドライバーと図書館職員がペアで配達。「べる運送」とは、本の宅配便の業務を担う図書館職員が各自考えたニックネームでした。「親しみやすさや温かさ、柔らかな雰囲気で受け取ってもらえるよう、ニックネームを使う方が良いのではないか」と図書館側が提案。総勢約40人ほどのローテーションのため、その数だけニックネームがあるそうです。べる運送の他には、「赤べこ」や「くらげ」、「ミミタン」など個性豊かな名前が並びます。

「『べるさん』に会えるかな?」

 質問を寄せてくれた読者に、べる運送の正体を伝えたところ、思わぬオチが待っていました。

 「そうでしたか(笑)。実は子どもは薄々気づいていたというか、勘違いというか…」

 -勘違い?

 「『今度図書館に行ったら、あの人がべるさんかなーってわかるかな?』って言うんです。まだ『運送』の意味が分からないから、『べる・うんそう』は図書館スタッフのフルネームだと思っているみたいで。だから『べるさんに会えるかな』って」

 勘違いだとしても、「次の本が読みたい」「選んでくれた人に会いたい」という5歳児のピュアな気持ちにキュンとさせられました。

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