「73歳から新しい人生が始まった」ツイッターやインスタ駆使する東京の有名寿司店主の思い「今だからこそ」

広畑 千春 広畑 千春

 「スキ、フォローありがとうございます。とても嬉しいです」

 「noteを始めたおかげで、73歳から新しい人生がはじまった気分です」

 コロナ禍で多くの飲食店が壊滅的な打撃を受ける中、73歳でツイッターやインスタグラム、note(ブログ)を駆使し、話題を集める東京の老舗すし店主がいます。臨時休業中も毎日店に出て新メニューを考え、家庭向けにアレンジした店の味を精力的に公開。ツイッターのフォロワーは4000を超え、絵文字や写真を交え更新されるツイートへの「いいね」は1万を超えることも。緊急事態宣言解除後も「新しい生活」の下で苦難は続きますが「まだ生きているだけで幸せなこと。今できることを一生懸命やりたい」と話す店主に聞きました。

 東京・下北沢で1975年の開業から45年間「鮨ほり川」を営む堀川文雄さん。本格的な江戸前寿司のほか、旬の野菜や果物を取り入れたオリジナル料理も人気で、有名人も足繁く訪れる名店です。そんな堀川さんがSNSを始めたのは、店のアルバイトの女子大学生らがいつもSNSをしているのを見たのがきっかけ。「自分も覚えたいな」とやり方を教わり、昨年3月にツイッターとインスタグラムのアカウントを開設しました。

 「自分も70歳を超え、昔の常連さんたちは多くが退職され、もう鬼籍に入られた方も。店を続けるためにも、江戸前の伝統を残すためにも新しいお客さんを開拓したいと思った」と堀川さん。「ツイッターやインスタを一番使っているのは25~35歳ぐらいの世代とか。でも、バブルの頃と違って上司のおごりや接待で来る機会も減り、『回らない寿司屋』を知らない若い人も多い。そんな人たちの敷居を少しでも低くし、食べたいお寿司を食べてもらい、どんどん美味しい味を知ってもらいたかった」と話し、1週間に1回ほどのペースで、春夏秋冬折々の美味しい魚や野菜、果物を使った寿司や一品を発信してきました。

 最初はおぼつかなかったものの少しずつ扱いに慣れ、フォロワーも増えつつあった矢先に、襲った新型コロナウイルスの感染拡大。それでも「マイナスばかり考えても仕方ない。前を向いて行くしか無いと思った」とnoteのアカウントを開設し、4月4日に初投稿。緊急事態宣言発令後の4月8日~5月6日までの臨時休業中も毎日店に行き「何を注文していいか分からない」「値段が書かれていないと怖い」という若い世代のお客向けに、選りすぐりのネタの中から好きな寿司や一品を自由に選べるコースを新たに考案するほか、トマトと豆腐を使った一番人気の「とまとうふ鍋」や、えんがわを使ったすき焼き風鍋といった店の人気料理のレシピを公開。マグロのトロとたくあんを巻いた「とろたく巻き」のサーモンバージョンなど、家庭向けにアレンジしたレシピを次々に発信し、そのたびに「これは美味しそう!」「店が開いたら絶対行く!」という声のほか「こんな年の取り方をしたい」というコメントも。

 70歳を過ぎての新たな挑戦にも「元々新しいことが好きだった」と堀川さん。料理人の“花形”だった寿司職人にあこがれ、20歳のとき大阪から上京し、27歳で独立。以来、仕入れから調理まで全て一人でこなし、今も毎朝バイクで豊洲市場と築地の場外市場を回る毎日ですが、「関西人だからですかね、つい、寿司の材料以外も仕入れたくなってしまう」。マンゴーや洋なし、イチゴなどの果物を使った創作寿司も次々に発案し、「若いお客さんや海外経験の多い方は意外とすんなりと受け入れてくれ、人気メニューになりました。その分、失敗もたくさんしてきましたけど、何事も一回やってみなきゃ分からんですから」と笑います。

 テレビや新聞などでも取り上げられ「自分自身では普通にやってるつもりだったけど、飲食店がどこも苦しいのと、この年だから目立ったのかな」とも。「実際、営業を再開しても、席を離さないといけないから客数は最大でも以前の4割ぐらい。それでも『SNSを見て来た』というお客さんや『いつか行きたい』と言ってくれる人もいるし、『美味しそう』とコメントをもらうだけでも、励みになる。今できることを一生懸命やっていかないと、始まらないですもんね」

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