コロナ禍の分散登校「一人一人の顔が見える!」「これが教育」広がる教員の本音…9月入学より必要なのは

広畑 千春 広畑 千春

 新型コロナウイルスの新規感染者減少などにより緊急事態宣言が解除された地域では、“3密”を防ぐ形での分散登校が始まっている。クラスを二つに分けるなどして行う形に、教員らの間では「子どもたち一人一人の顔が見える」「担任も気持ちがラク」という声が。コロナから生活も学校も新しい形が求められる中「9月入学よりも先に、少人数学級のもたらす教育的効果や、子どもとの向き合い方そのものが見直されるべき」といった指摘も上がっている。

「先生も子どもも笑顔」に共感広がる

 Twitter上では「分散登校すごくいい!これが教育だと思った。幸せな気分」という教員の投稿が6万以上のいいねを集めるほどに。関東地方のある公立小学校では21日からクラスを二つに分けて登校日が設定。ある教員は「1カ月ぶり以上の再会。最初はお互い不安や緊張もあったが、それ以上に再会の喜びが大きかった」と振り返り「30人学級なので15人ずつ。圧倒的に子ども一人一人に目が届き、関わることができた。子どもたちも一人一人発言したり、考えたりする機会や時間が今までよりも増えた」と喜ぶ。

 同じく21日から学年ごとの登校日が設定された兵庫県内の公立小学校の教員も「休校期間中に課題は出していたが、かなり差が広がっている印象。でも少人数なら難しい子へのフォローもしやすく、教えやすさはこの上ない。学級活動では人数がいるからこその劇的な展開は難しいけれど、授業の面ではこのぐらいの方が学力も上がるし、子ども同士のもめ事も少ない。ただ、同じ事を普段の倍話すので、最後の方はかなり疲れますけどね」と苦笑する。

 義務標準法では公立小中学校の通常学級の標準(上限)を40人と規定し、2011年から小学1年生のみ35人標準に。欧米では30人を上限としている国が多く、文科省もきめ細やかな教育を行うため教員の加配を拡充するほか、都道府県ごとに独自予算を設け、より少人数の学級編成を行っている自治体もある。

 それでも、ある小学校教員は「教員1年生1日目でも『先生』として40人近くを見ないといけない。公平に見ているつもりでも、どうしても勉強が出来ない子や発言力がある子に注意が偏ってしまう。いわゆる『いじめの芽』になりかねない小さなトラブルがあっても見切り発車しないと次の時間、その次の時間にまで影響し、授業が進まない」といい、「いつの間にかその状況を『仕方ない』と思うようになってしまった」と打ち明ける。

クラス運営に労力の8割、「理不尽」と分かっていても…

 特に小学校は大半の授業を担任が見るため「クラス運営が労力の8割を占める」と話す教員も。クラスがうまくいけば評価が上がるが、荒れれば保護者からも「頼りない」とみなされる。「1学期は“勝負の時期”。『列を乱したら最初からやり直し』など、自分でも『理不尽だな』と思うことも、せざるを得なかった」と話す。一つのクラスが破綻すれば、他学級や学年全体にまで影響するため「教員同士の指導も、つい力が入りがちになる。時には厳しく叱責することもあるが、これも、パワハラと言われてしまうのかも…」とこぼす。

 「もし1学級20人だったり、複数担任だったら?そりゃ不必要なルールもほぼ要らないし、もっと一人一人に目が行き届くと思う。新人教員の指導もしやすいでしょうね」とこの教員。「でも、今の教育や教員、学校を批判する政治家もコメンテーターも、9月入学は声高に言うのに、誰もそんなこと提案してくれない。『教育にお金を』『教員の長時間勤務短縮』―と散々言うのに、人は増やしてくれない。だから個人が個人の裁量で頑張るしかない。学校ってどこまでも『昭和』なんです」とため息をつく。

専門家 今だからこそ「子どもと教師が向き合える環境」を

 分散登校期間が終われば、また通常学級に戻る。教員らは「また、40人近いクラス内でソーシャル・ディスタンスを確保しつつ遅れている授業をどう進めるか、広がった格差をどう埋めるか、評価は…など、今後の方が不安ばかり」とも。京都精華大の住友剛教授(教育学)は「政治家も、教育行政も、教育研究者も、現場教職員も皆、何かいま、大事なことを忘れている。とにかく、今はまず目の前の子どもたちの『こんな大変な世の中だけど、それでも生きよう』という気持ちに、また子どもの家庭に向き合い、そこから見えてきた課題に取り組むこと」と指摘。「教科書や学習指導要領を学年末までにきっちり終え、テストで学力測定して…という従来の学習観や教育観にとらわれるから、それを“一気に解決できる”かのような、9月入学などのファンタジーが生まれる。脱すべきはそうした価値観であり、まずは子どもが『やりたい』と思うことに教員が精一杯向き合える“環境”を整えるべき」としている。

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