スクロールすれども、スクロールすれども、鍋の中のだし、だし、だし──。
神戸市内にあるエビカレー丼の有名店「たつや」(神戸市兵庫区荒田町2)のインスタグラムがストイック過ぎる投稿を続けている。被写体は鍋の中のだし汁。一見すると、天体マニアの月観測アカウントかと見紛うほど、連日、黄金色の丸い物体ばかりが続く。投稿主の2代目店主、郡(こおり)正和さん(39)を直撃した。
開店前から行列のできる店
神戸・湊川周辺では「開店前から行列のできる店」として有名な同店。インスタで「たつや」と検索すると、丼によそわれたカレーに巨大なエビフライがニョキっとそびえ立つ、顧客らの投稿写真が次々と現れる。これが看板メニューの「エビカレー丼」だ。
<うますぎやん!><大行列><腹パン><カレー丼売り切れてた…>食後の感想からは人気のほどがうかがえる。いいね必至の看板メニューがあるのに、なぜ店主はだし汁ばかりを投稿するのだろうか。
──インスタ、ギョッとしました。
「あはは笑。爪あとを残そうと思って」
──爪あと?
「いつかだしの手だれの目に触れたら、語り合えるんじゃないかと」
──なぜ毎日だし汁なんですか?
「同じものを毎日アップすると、小さな変化を楽しんでもらえるかなと」
毎朝7時から厨房でだしを引く郡さん。全メニューに使用するだしはこの1種類のみ。大鍋の湯の中に、昆布を入れ柔らかくなるまで煮る。沸騰したらかつおを投入。その日の気温やかつおの質によって、完成までの時間も40分から1時間30分ほどと日によってまちまち。全ては郡さんの感覚次第。この道20年の郡さんは「慣れてるから」とはにかむ。
50リットル以上のだしが完成したら、いざインスタの撮影タイム。撮影条件を変えたくないという思いから、出来上がった直後に、定位置から撮影するというこだわりぶりだ。
現在の行列は?
コロナ禍以降、名物だった行列はどうなったのだろう。郡さんは「全然ですよ」と声を沈ませる。緊急事態宣言発令後、テークアウトの方法を模索。4月18日からエビカレー丼に使用する「カレールー」のお持ち帰りを始めた。行列せずに「おうちでたつや」ができるとあって、じわじわと人気が広がっている。巨大エビフライを再現するもよし、オリジナルのフライを好きなだけ刺すもよし。2人前800円。営業時間は午前10時半~午後3時(短縮中)。木曜定休。
◇
最後に郡さんが、全国のだしマニアにメッセージを寄せてくれた。
「もっともっとだしのことを勉強したいので、教えられる人がいたら教えてください。だし話で盛り上がりましょう!」
郡さんはあなたからの挑戦を待っている! …かもしれません。