「マルマンのスケッチブック」正式名とデザインの秘密 創業100年老舗のロングセラー商品

金井 かおる 金井 かおる

 5月上旬のある日、大阪府高槻市の淀川沿いを愛犬と散歩中だったデザイナーの「上司ニシグチ」さんは、堤防の近くである物を発見しました。

 <工事現場にて。マルマンさんのスケッチブックかと思った>

 砂利道の上に設置された工事用の印は、有名なスケッチブックのデザインにそっくり。驚きを伝えようと写真に収め、ツイッターに投稿。すると、じわじわといいねの数が増加し、ついにはスケッチブックのメーカー、マルマンの公式アカウントの知るところに。同社は2万人強のフォロワーに向け上司さんのツイートを紹介しました。

 上司さんに心境を尋ねると「本家本元マルマンさんからリツイートいただくとは思ってもいなかったので、すごくビックリしました。デザイナーの仕事柄、マルマンさんのニーモシネ(ビジネスノートシリーズ)を愛用しています。これからもマルマンさんを応援しております!」と興奮冷めやらぬ様子で教えてくれました。

 散歩中の発見がきっかけとなったファンとメーカーとのSNSでの交流は、現在も拡散が続いています。

正式名は?

 老舗文具メーカー、マルマン(東京都中野区)は1920(大正9)年に創業し、今年9月に100周年を迎えます。

 看板商品である黄色と深緑の表紙が印象的なスケッチブックは、年間200万冊以上、累計9000万冊の売上数を誇るロングセラー商品です。「マルマンのスケッチブック」と呼ばれることが多いものの、実はこれは通称。正式には「図案スケッチブック」という立派な商品名がありました。

 図案とは、三省堂国語辞典第七版によると「美術・工芸作品などを作るときの、色の取りあわせや形のならべ方。デザイン」。

 正式名は浸透しているのでしょうか。関西の文具店に長年勤務する女性社員に尋ねたところ「お客さまからは、緑と黄色の模様のスケッチブック、テレビ局の人がカメラの横でカンペ用に使うスケッチブックなどと言われることがあります。建築や美術、デザイン系のお客さまは『図案』と名指しされます」。スタッフ同士では、マルマン図案や図案と呼ぶそうです。

表紙に隠れているのは…

 予想外の古風なネーミングには何か秘密が隠されていそう。マルマンの広報担当者に話を聞きました。

 ――図案スケッチブックとはなんとも渋いネーミングです。由来は?

「発売は1958(昭和33)年です。当時、日本ではデザイン=図案という概念が一般的ではなく、デザイナーも図案家と呼ばれておりました。それまで発売されていたスケッチブックの表紙は、ただのボール紙が一般的でした。そんな中、黄色と深い緑の大胆な構成の『図案(デザイン)』が表紙に印刷されたスケッチブック『図案スケッチブック』が誕生しました」

 デザインを手掛けたのはグラフィックデザイナーの奈良部恵三さん。当時、青山学院大の学生だった奈良部さんが同社に持ち込んだデザインだったそうです。

 さらに広報担当者は「確定情報ではございませんが」と断った上で、とっておきの逸話も教えてくれました。「図案の『図』の文字がデザインの由来になったともいわれております」。

 同社創業者の井口興一さんは「将来を担う子どもたちが思い切り白い紙に絵を描き、夢を描けるように」との思いからスケッチブックの製造販売をスタートさせました。100年経った今、コロナ禍を懸命に生きる子どもたちにも伝えたいメッセージに思えてなりません。

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