道路に書かれた「止まれ」の標示の「れ」の字体が、京都と関西の他府県で微妙に違う。京都市出身のライターが刊行した著書によると、京都府内では横線が縦線とくっついているが、大阪府や兵庫県、滋賀県では離れている。なぜなのか。大阪や神戸とは“一線”を画しているという京都人意識の表れ、なのかもしれない。
道路標示の違いは、「城」「犬」など31項目について二つの地域を写真とともに比較した「くらべる日本 東西南北」(東京書籍)で紹介されている。
執筆した岡部敬史さん(46)=東京都=によると、全国的には京都のように線がくっついた「れ」が多い。岡部さんが取材で各地を訪れた際に確認し、遠方の情報も募った結果、東京都や札幌市、山形市、福井市、富山市、松山市、香川県丸亀市、福岡市も同様だった。一方、線が離れている「れ」は、京都を除けば「関西の主流」という。
警察庁によると、「止まれ」などの標示は1998年に同庁が統一化を図るまで、各都道府県で多様な形が使われていたという。標示を作る業者でつくる「全国道路標識・標示業協会」(東京都)は「標示の細かい部分は設置業者にある程度任せられていた時代があった」とする。
警察庁が示した仕様例では、京都のように線がくっついている。線が離れている滋賀県警は「『れ』として十分認識できる。予算的な事情もあり、そのままにしている」とする。
今も残る「止まれ」の「れ」の地域差は、均一化を図る以前の頃の名残のようだ。関西の府県の中で京都が違う点について岡部さんは「よそさんとは違うという京都人の心情の現れでしょうか」と笑う。
そもそも、ひらがなとしてはどちらが正解なのか。
日本漢字能力検定協会(東山区)の漢字文化研究所所長を務める阿辻哲次・京都大名誉教授は「漢字と同様に、ひらがなで公式に定められた形はない。書きやすく、読みやすければ良い」と解説する。