カラスが繁殖シーズンを迎える中、電柱上での巣作りに電力会社が頭を痛めている。巣の素材としてカラスが調達した針金ハンガーなどが電線に接触し、時に大規模な停電が発生するからだ。3月には京都駅(京都市下京区)の構内が停電し、混乱を引き起こした。電力会社は巣の撤去に追われているが、営巣を防ぐ抜本的な対策はなく、いたちごっこが続く。
京都駅構内の停電は3月27日に発生した。商業施設「コトチカ京都」など約1200軒が停電し、スーパーやカフェは休業を余儀なくされたほか、銀行の現金自動預払機も利用できなくなり、市民生活が混乱した。電力会社が調べたところ、原因は京都駅南側の電柱上にカラスが作った巣が漏電で燃えたことだった。
カラスの営巣時期は3―6月で、電力会社は今パトロールを強化している。京都市と亀岡市、南丹市、京丹波町を管轄する関西電力送配電京都支社(下京区)の京都配電営業所は2018年度、561カ所の電柱上の巣を撤去した。それでも同年度に136件起きた停電のうち、3%に当たる5件は巣が原因だった。
電線の表面は絶縁の膜で覆われているが、カラスがついばんだりすると傷が付く。傷の部分にハンガーや雨にぬれた枝が接触した場合、漏電して停電に至るという。
巣の撤去作業はどのように行われるのか。同行取材した。
4月20日、午後の雨上がり。京阪出町柳駅(左京区)近くの3カ所の電柱で、京都配電営業所が作業に当たった。作業員2人と警備員2人が従事。電線に6600ボルトの電流が流れているため、感電を防ぐ特殊な服を着て高所作業車に乗り、高さ約15メートルに作られた巣を電柱から丁寧に取り除いた。
異変に気付いたカラスのつがいは上空を周回。作業員に背後から襲いかかり、くちばしで後頭部をつつくこともあった。最終的には近くの電線に止まり、諦めたように「カーカー」と繰り返し鳴いた。下垣内(しもがいと)新介作業長(34)に心境を尋ねると「巣があった場所に戻ってきたカラスは寂しそうな表情をしていて、心が痛む。しかし、市民生活のライフラインを守るため仕方がない」と話した。
撤去した巣はいずれも直径約60センチのおわん型で、木の枝や針金ハンガーで器用に組まれていた。
カラスの生態に詳しい杉田昭栄・宇都宮大名誉教授によると、カラスは学習能力が高く気に入った物は何でも使う。電柱上は安全で見晴らしが良く、電柱間の距離があって縄張り争いも避けられるため、ハシボソガラスという種が主に営巣する。カラス対策に年間数億円をかけている電力会社もあるという。
杉田名誉教授は、「カラスは人間のそばにいることで営巣の素材や餌を入手できるといった利点を感じている。私たちができる対策としては餌となる生ごみを管理し、屋外にハンガーを放置しないことが大切」と指摘。その上で、共生に向けて「カラスも自然界の一員。ある程度は寛容に見る必要がある」と話す。