新型コロナの感染拡大で不安が広がる中、江戸時代末期に伝染病の流行を予言したという鳥「ヨゲンノトリ」がネットで話題になっています。「私の姿を朝夕に拝めば難を逃れることができるぞ」とも告げたといい、ネットには「早速きょうから拝みます」「これで疫病退散」といった声も。イラストや人形で表現した、自分なりのヨゲンノトリを投稿する人もいて、第2の「アマビエ」のような盛り上がりとなっています。
「ヨゲンノトリ」は、山梨県立博物館が4月3日にTwitterで紹介した鳥のことです。同館が所蔵する文献「暴瀉病流行日記(ぼうしゃびょうりゅうこうにっき)」に描かれているといい、その姿はカラスのようなイメージですが、1つの胴体に白と黒に分かれた2つの頭が付いています。
「暴瀉病流行日記」は、当時流行していたコレラの様子を、甲斐国(かいのくに・現在の山梨県)内の名主(役人)が記録していた日記です。1858年長崎で発生したコレラは、7月に江戸に到達。7月後半には甲斐国でも感染が拡大していきます。甲府で1日あたり30―40人もの人が伝染病で亡くなるようになった8月初頭、役人はヨゲンノトリの噂を耳にし、日記に記します。
その内容は「この図のような鳥が、去年12月に加賀国(現在の石川県)白山に現れ、『来年の8、9月ごろ、世の中の人が9割方死ぬという災難が起こる。自分の姿を朝と夕方に仰ぎ、信じるものは難を逃れることができる』といった」というようなもの。また、この鳥は「熊野七社大権現のすぐれた武徳をあらわす烏といわれている」とも…。
同館の担当者によると「目に見えない病への不安が、このようなものを生み出したのではないか」といいます。感染症の知識もなく、病の原因さえ分からなかった当時、できることといえば病魔退散を祈ることだけ。日記の中にも、農民も商人もすべての人が仕事を行わず、ひたすら念仏を唱える日々が続いたとの記述があるそうです。「鳥の説明には『加賀国白山』『熊野七社大権現』など、当時の人たちが思いつく限りの『霊験あらたか』で『強そう』なものが含まれている」といい、救いを求め、何かにすがりたいと願っていた人々の気持ちが、ひしひしと感じられます。
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「暴瀉病流行日記」は同館職員の間でもよく知られている資料で、この鳥についても同館が「ヨゲンノトリ」と名付けて展示などで取り上げてきました。新型コロナの感染拡大にあわせて、疫病を予言したという妖怪「アマビエ」が話題になっていたため、このたびヨゲンノトリのことを紹介したといいます。
ヨゲンノトリ…と名前だけ聞くと、とてもおどろおどろしい印象がありますが、その姿は大変やわらかいタッチで描かれ、ゆるキャラさえも彷彿とさせます。Twitterには「これはかわいい」「これまた素敵な鳥さんが来た」という声が寄せられています。また、アマビエに続き、ヨゲンノトリをイラストやグッズにした作品も続々と投稿されています。折り紙やフェルトの人形、粘土でつくったオブジェなど…。「コロナもいよいよ神頼みっぽくなってきました」という指摘もありましたが、これだけたくさんの作品が投稿されていたら、本当にご利益がありそうです。
同館では反響の大きさから、ホームページに特設コーナーを設置し、詳しい資料を掲載しています。同館は「過去の人たちがいかに病の驚異に対して立ち向かってきたのか、今後も紹介していきたい」としています。
■山梨県立博物館「疫病退散!ヨゲンノトリコーナー」
http://www.museum.pref.yamanashi.jp/3rd_news/3rd_news_news200410.html