富山市の観光スポットの一つ、富山城の城址(じょうし)公園に、思わず立ち止まって見入ってしまう看板がある。「烏(カラス)ニ告グ ココデ餌ヲ食ウベカラズ 公園奉行所烏捕縛目付役」。ご丁寧にルビまで振ってあるけど、まさかカラスに日本語を読ませようとしてる? 実はこれ、カラスよけを狙った試みらしい。どういう作用なのか、関係者に話を聞いた。
富山市によると、富山城周辺では長年、大量に繁殖したカラスによるふん害が問題になっている。市の生息数調査では、ピークの2008年には1万2千羽前後の個体数を確認。10年以上にわたる捕獲対策や追い払い対策の結果、今年2月には個体数を3千羽前後にまで減らしたが、それでもカラス対策が必要な状況に変わりはないという。
くだんの看板を設置したのは、城内の公園を管理する市公園緑地課。担当者に経緯を聞くと、「他の自治体でカラスが居づらくなったと聞き、今年5月に設置しました」。効果のほどについても尋ねたが、「検証中ですね」とそっけない回答。どのような効果があるのかまでは分からなかった。
詳しい専門家がいないかと調べると、日本語の張り紙でカラスの追い払いを成功させた人がいることが分かった。長崎県五島市の地域おこし協力隊員を務めている野澤努さん(52)。鳥獣害対策のスペシャリストで、カラスの生態にも詳しい。
4年前、当時は宇都宮大「雑草と里山の科学教育研究センター」の研究員だった野澤さんに、東京大の大気海洋研究所からある相談が舞い込んだ。岩手県大槌町にある研究施設にカラスが入り込まないよう、対策を考えてほしいとの内容だった。巣の材料に使う配管の断熱材をついばみに来るのに悩まされているという。
思案の末に野澤さんが提案したのが、建物の窓に「カラス侵入禁止」と書いた張り紙を掲げることだった。もちろん、カラスに読ませるのが狙いではない。
「カラスって、人の視線を気にする性質があるんですよ。それをうまく利用すれば追い払えるんじゃないかと考えていた。張り紙をしていると人が見たり、指さしたりするので、嫌がって近づかなくなるだろうと」
効果はてきめん。不思議なくらい、カラスが近寄らなくなったのだという。
では、富山城の看板も同じくカラスよけに有効なのだろうか。野澤さんは「スマートなやり方だと思いますよ。そういう看板があれば、訪れた人もカラスが来ることを知り、餌にならないようそのあたりで食事しなくなるでしょうし。観光地として話題づくりにもなる」と評価する。
果たして富山市の試みは、一石二鳥ならぬ「一板多烏」となるのか。効果に期待だ。