映画がコロナ禍を生き延びるため…「仮設の映画館」開館 ネットで鑑賞、収益はリアル劇場にも分配

黒川 裕生 黒川 裕生

新型コロナウイルスの感染拡大によって全国の映画館が窮地に立たされる中、映画をデジタル配信して料金を各劇場に分配するという画期的な取り組み「仮設の映画館」が注目を集めている。企画したのは「選挙」「精神」などのドキュメンタリー作品で知られる想田和弘監督と、配給会社「東風」。想田監督の新作「精神0」を5月2日から配信し、一般的な興行収入と同様、劇場と配給会社で収益を分配する。想田監督は「うまく機能すれば通常の劇場公開と同程度の収入が見込める。十分な補償のない休業要請には本当に腹が立つが、私たち映画人も座して死を待つつもりはない」と力を込める。

仮設の映画館とは

「仮設の映画館」は、インターネット上で作品を見る仕組み。利用者が特設サイトで近くの映画館を選択し、そこで鑑賞すると、料金(一律1800円)からプラットフォームの利用料(約10%)を差し引いた額が、劇場と配給会社で分配(5:5)される。上映を予定していた劇場が休映または休館している場合でも、仮設の映画館では続映し、分配の対象となる。

配信は5月2日午前10時から5月22日午後9時まで。東風は「“本物の映画館”と同じく、ヒットしたら延長されるかもしれません」とした上で、「状況が改善したら、ぜひ本物の映画館に足をお運びください。ここはあくまで“仮設の映画館”です」と呼び掛ける。

なりふり構わず助け合い、みんなで生き延びる

心の病を抱える人たちの悲喜こもごもを描いた映画「精神」(2008年)の主人公のひとり、山本昌知医師と妻芳子さんの2人の生活を見つめた「精神0」。当初は5月2日から全国で順次公開される予定だったが、新型コロナウイルスの影響が映画館にも及び危機的な状況に。「作り手としての立場だけを考えると、思い切って1年くらい公開を延期して、安心できる環境で見てもらいたい―というのが本音。でもそうすると、新作を上映できない映画館は一体どうなるのか。1年後にコロナ禍が終息していても、上映する肝心の映画館がなくなっている事態すらあり得る」と想田監督。東風と打開策についてアイデアを出し合った結果、デジタル配信して収益を分配する「仮設の映画館」構想にたどり着いたという。

「本来は日本政府や自治体が休業補償をするべきだが、呆れるくらい動きが鈍い。となると私たちにできるのは、なりふり構わず助け合い、みんなで生き残る道を探ることしかありません。もはや文句を言っている時間やエネルギーすらない緊急事態なのです」

全国の映画館も懸命の努力

全国のミニシアターは今、「SAVE the CINEMA」を掲げて署名活動やクラウドファンディングを展開中。関西の13館はオリジナルTシャツを販売し、収益を各館で均等に分配する独自の企画を実施するなど、緊急支援を求める取り組みの輪が広がっている。

想田監督は「ちゃんと補償されたら、みんな喜んで休みますよ。でもそれがない以上、考えられる手は片っ端から打っていくべき」とこうした動きに強い共闘の姿勢を示す。その上で、「仮設の映画館は映画を守るための苦肉の策だが、『精神0』以外の作品でも同様のことができれば、休館していても収入の道が確保できる」として、構想の反響や広がりに期待している。

◾️仮設の映画館 http://www.temporary-cinema.jp/seishin0/

◾️「精神0」公式サイト https://www.seishin0.com/

おすすめニュース

気になるキーワード

新着ニュース