「オサ」「キト」「テン」「シオ」? 暗号みたいなカタカナ略語のオンパレード<鉄道編>

おもしろ業界用語

平藤 清刀 平藤 清刀

ふだんからよくお世話になっている鉄道。明治の初期から存在する歴史の古い業界だけに、独特な用語が多い。鉄道業界で使われている用語は、一部の例外を除いて、ほとんどが暗号のようなカタカナで表記される略語といっていい。われわれ一般人にはあまりなじみのない用語について、鉄道ライターの伊原薫さんにお話を聞いた。

主要な駅名は…「カタカナ2文字に」

関西人になじみ深い駅名だと、京都(キョウト)⇒「キト」、天王寺(テンノウジ)⇒「テン」、大阪(オオサカ)⇒「オサ」となる。では新大阪(シンオオサカ)はどう略されるのかというと、「シオ」となる。

ちなみに東京(トウキョウ)は「トウ」、名古屋(ナゴヤ)は「ナコ」である。

だが2文字だと、どうしても同じ略になる駅が出てくる。たとえば「オサ」は「大阪」の他に「大崎」があり、「キト」は「北浦和」「木戸」などがある。

ともあれ駅名を2文字に略すことは分かった。しかし1文字の駅名もある。JR紀勢本線の「津(ツ)」はどうするかというと、これは2回繰り返して「ツツ」なのだそうだ。略語が多い中で、これは例外中の例外だろう。

では何故、カタカナ2文字なのか? ちゃんと理由がある。ネットはおろか電話でさえ十分に普及していなかった時代は、急ぎの用件を伝える手段は電報が主流だった。

「電報はカタカナ表記だったことと、文字数をなるべく節約したい事情から、電報略号として多用されたのです」(伊原さん)

なるほど、必要に迫られたことから、さまざまな略語が生まれたのだ。

ときどき耳にする「お客様トラブル」って?

列車に乗っていてときどき遭遇するトラブルで、発車時刻を過ぎているのに動き出さないことがある。どうしたんだろうと思っていると、こんな車内アナウンスが流れてくる。

「ただいま“お客様トラブル”により発車が遅れております」

お客様トラブルで多いのは、イヤホンからの音漏れ、満員の車内で肩が触れたとか足を踏んだということから発展するケンカ、女性専用車両に男性が乗っているクレームなど。そして「痴漢が出た」ということも。

これと似たケースで「お客様が列車に接触したため……」というアナウンスも、ときどき耳にする。

「その場合は、人身事故のことです。中には接触のレベルじゃないだろというケースもあります」(伊原さん)

筆者の経験だが、ホームに立っている客が、走り始めた列車の車体をわざわざ触わりにいったために緊急停止する事態に遭遇したことがある。そのていどでも接触なら、列車に跳ね飛ばされるような事故でも接触と表現するのだという。

電報を使わなくなって…略語にも変化が

鉄道業界に略語が多い背景には、前述したように電報を打つため必要に迫られた事情がある。電報が使われなくなるにつれて、消えていった略語もあれば使い続けられている略語もある。そのいくつかを列挙してみよう。

◆絶滅しつつある略語

・ウテシ……運転士(ウンテンシ)

・キシ……機関士(キカンシ)

・レチ……車掌。かつて「列車長(レッシャチョウ)」と呼んでいたことに由来する。

電話が普及し、音声で伝えるときにわずか1~2文字詰めることの意味がなくなったため、これらは略語としての役割を終えたといわれる。「今では略されずに、そのまま呼んでいます」(伊原さん)

◆残っている略語

・カマ……機関車のこと。蒸気機関車の石炭を燃やすボイラーを「かま」と呼んでいた時代の名残で、電気機関車もディーゼル機関車もひっくるめてこう呼ぶらしい。

・せっぷん……これは略語というよりは隠語で、列車を連結すること。語源は「接吻」に由来すると思って間違いないはず。

◆鉄道会社による用語の違い

鉄道はもともと官営で始まった事業が民間へ派生していった経緯があるため、基本的な用語・略語に大きな違いはない。ただ、戦後になって英語が少し入るようになった。

たとえば、ある会社では運転士のことをドライバー(Driver)と呼び、文字で表す際にはアルファベットの「D」で表記する。また別の会社では、同じ運転士でもモーターマン(Motorman)と呼んで「M」で表記するそうだ。そして車掌はなぜか各社共通で「指揮を執る人」という意味から、コンダクター(Conductor)の頭文字をとって「C」で表記されるという。

使われなくなった略語は先輩から後輩へ継承されないため、いわゆる鉄道マニアは知っていても若い鉄道マンが知らないこともある。それとは逆に、ATC(自動列車制御装置=Automatic Train Control)、ATS(自動列車停止装置=Automatic Train Stop)、ATO(自動列車運転装置=Automatic Train Operation)など、英語の頭文字をとった用語が新しく生まれている。

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