犬を勝手に飼うと罰則が? 猫と犬で違う飼育の法律、弁護士に聞く

鶴野 浩己 鶴野 浩己

犬と猫では、家族に迎え入れる際の法律が違うことをご存じだろうか。

愛媛県に住む筆者の知人が、街をさまよっているトイプードルを見かけた。痩せた体にボロボロの体毛――。「捨てられたのかな」とかわいそうに思い、家族に迎え入れることにした。ところが近所の人から「理由はよく知らないが、犬は勝手に飼育しちゃいけないらしいよ」と言われ、途方に暮れてしまった。そこで、犬の飼育関連の法律について、暁星法律事務所の守田恵弁護士に聞いた。

犬には登録義務がある

 ――犬を勝手に飼育してはいけないのでしょうか。

「結論から申しますと、犬は勝手に飼ってはいけません。狂犬病予防法により、犬を飼うときは、居住している市区町村に犬を登録すること、年に1回狂犬病の予防注射をすることが義務付けられていて、登録・注射をすれば、登録番号が書かれた鑑札と注射済み証が発行されます。この鑑札と注射済み証の両方を犬の首輪や胴輪に装着するまでが飼い主の義務で、これらが装着されている犬は、法律上「飼い主がいる」ということになります。飼い主がいる犬を勝手に飼うと、刑法上、窃盗罪または占有離脱物横領罪が成立しうるため、懲役または20万円以下の罰金刑が適用されうるのです。ちなみに、登録をせず、鑑札・注射済み証を付けずに犬を飼っている場合は、狂犬病予防法違反で20万円以下の罰金対象になります。先のトイプードルの場合なら、鑑札が付いていなければ登録をして飼うことができます」

――鑑札が付いている犬の場合は、どこに連絡をすれば?

「遺失物(落とし物)と同じ扱いになるので、基本的には警察に連絡をします。ただ、保護した犬には清潔な環境や食事を与えなくてはいけないので、それを警察でできるのか、という問題もあるため、連絡先は、都道府県が管理する動物愛護センターや保健所でも大丈夫です。飼い主が犬の遺失物届を出していれば、そこで登録番号と照らし合わせて、飼い主のもとに連絡がいきますが、遺失物届を出していない場合は、都道府県ごとの条例で対応が変わります。たとえば兵庫県の場合なら、鑑札で所有者がわかれば連絡がいきますが、引っ越し等で連絡先が判明しない場合には、役所の公報、一部ホームページなどで2日間公示し、公示終了後1日以内に所有者から連絡がなければ、殺処分をしてもいい、ということになっています。ただし、殺処分が決まった時点でその犬には所有者がいないということになりますから、都道府県によっては新たな飼い主の希望を募るケースもあります」

――鑑札が付いているけれど、虐待や飼育放棄が疑われる場合はどうすればよいのでしょう?

「各都道府県には、知事から委託を受けた動物愛護推進員といった立場の人たちがいるので、まずはそこに連絡をして判断を仰ぐとよいと思います。虐待などが疑われる場合、動物病院で診断を受ければいろいろとわかるはずですが、動物愛護推進員には獣医師も含まれています。さらに獣医には、虐待が疑われる動物が診察に訪れた際に、都道府県知事や関係機関に通報しなくてはいけないという義務がある。ですから、最初の相談窓口としてはここが適任だと思われます。動物愛護推進員の連絡先は、役所や動物愛護センターに問い合わせればわかるはずです」

――虐待や飼育放棄が認められれば、飼い主に罰則を与えられるのですか?

「虐待や飼育放棄、遺棄が認められた場合は動物愛護法違反となり、100万円以下の罰金です。ただ、「脱走した」など、いくらでも言い逃れができてしまうのも現実。ですから、虐待や遺棄が疑われる鑑札付きの迷い犬を家族に迎えたい場合は、まず動物愛護センターや動物愛護推進員に連絡をして、「所有者が見つからなければ自分が飼いたい」という意思を伝え、所有者が名乗り出るまでの公示期間が過ぎるのを待ってから、新たに登録をして迎え入れるのが現実的な救済策です」

 猫には登録義務がない

――犬には登録制度や予防注射義務などがあり、鑑札が付いた犬を勝手に飼うと罪に問われる可能性がある。では、猫の場合は?

「猫は登録をせずに飼っても大丈夫です。狂犬病予防法の対象動物には、実は猫も含まれているのですが、登録・予防注射義務の規定が猫には適用されていないのです。ただ、首輪に飼い主の連絡先が書かれているなど、飼い主がいるとわかる猫は、犬同様に関係機関に連絡をしたほうがいいでしょう。ペットをめぐって、もとの飼い主と、保護して育てていた人との間でトラブルが発生し、裁判に至った事例もありますから」

犬と猫で違う、飼育の法律。迷い犬を見つけて「かわいそう」と思っても、まずは鑑札を確認し、必要な手続きを踏んでから家族に迎え入れたほうが、飼い主も犬もトラブルなく幸せに暮らしていけそうだ。

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