余命1年のはずが4年近くに…「老いる姿、愛おしい」介護の喜びを教えてくれた16歳の元保護犬・ペピちゃん

岡部 充代 岡部 充代

 愛犬家の松尾さんは今、「シニアのかわいさにハマっている」と言います。傍らにいるペピちゃんは推定16歳。元保護犬で、松尾さんが通っていた『大阪ペピイ動物看護専門学校』の飼育犬でした。飼育犬とはさまざまな実習のパートナーになってくれる犬のことで、採血の方法やカルテの書き方など、この飼育犬を通じて学んでいきます。ペピイでは“期”ごとに犬や猫が一緒に入学して、卒業時に引き取られることが多いのだとか。松尾さんは入学当初からペピちゃんを引き取りたいと思っていたそうです。

 「ひとめぼれでしたね(笑)。真っ黒な顔がかわいくて。休み時間に会いに行ったり、休日の飼育当番も積極的にやっていました。ペピも私に一番なついてくれていましたし、同級生はみんな、ペピを引き取るのは私だと思っていたと思います」(松尾さん)

 

 そんなペピちゃんに最初に病気が見つかったのは2016年夏。一緒に暮らし始めて10年目のことでした。病名は慢性腎不全。

「犬の場合、腎不全の症状が出てからの余命は諸説ありますが、大体1年くらいと言われています。ペピは早期発見できたからよかったんだと思います」(松尾さん)

 ペピちゃんには特に症状があったわけではなく、定期的に行っていた検査で数値の異常に気付けたのだと言います。

「若いときは1年に1回、8歳を過ぎてからは半年に1回のペースで血液検査、尿検査、レントゲン、気になることがあれば超音波検査もしています。ペピの場合、腎臓に何かありそうな数値が出たので、より早期の腎臓病を発見できる数値を調べられるSDMAという検査を、専門の検査機関に依頼して行ったんです」(松尾さん)

 さすがは元動物看護士。健康診断をマメに行っていたことが早期発見につながったわけです。ただ、慢性腎不全を治す薬はなく、悪化するスピードを緩やかにするしかありません。ペピちゃんの場合はフードを療法食に替え、水を一日1〜1.2リットルと多めに飲めるように、回数を分けて与えたり、缶詰のウェットフードを混ぜたり、オヤツを浮かべたり…さまざまな工夫をしています。

 

 こうして腎臓病と上手に付き合ってきたペピちゃんですが、18年夏に今度は悪性リンパ腫が見つかりました。アゴの下の腫れに気付いた松尾さんが病院へ連れて行き、リンパ節と脾臓の細胞診を行ったところ「リンパ腫の疑いあり」。次に確定診断をするため脾臓の生検を行い、全身に広がっている可能性があるリンパ腫だと分かりました。松尾さんは「抗がん剤治療をしても1年持たないかもしれない」と覚悟したそうです。

「でも、やれるだけのことはやろうと思って、抗がん剤治療を始めました。副作用で毛が抜けてスカスカになったり、強い抗がん剤を使ったときには3日くらい寝たきりになったり。あのとき、後ろ足が一気に弱った気がします。それでも少しずつ腫れが小さくなって、効果を感じられていたのですが、予定していた半年の投与が終わる前に再発してしまって…」(松尾さん)

 

 飼い主にとってはつらい現実です。見えかけた光が遮られたのですから。でも、ペピちゃんは頑張りました。薬の種類を替えるなどした結果、19年春の検査ではリンパ節に腫れは認められず、経過観察することに。まずはひと安心でしたが、松尾さんには新たな悩みが出てきました。

「次に再発したら治療するかどうか。病院に勤めているときは、少しでも可能性があるのならできることをやりましょうという考えでした。でも飼い主としては…。緩和治療にするかもしれません」(松尾さん)

 

 そして20年2月、恐れていたことが起こりました。ペピちゃんの肺に腫瘍が見つかったのです。リンパ腫が転移したのかなど、詳しいことは肺の腫瘍の細胞診をするか、外科切除するなどして調べなければ分かりません。でも、もう16歳。リスクが高いため、松尾さんは対症療法の道を選択しました。

 幸い、今回は軽度の肺炎で済んだため、今は落ち着いているそうですが、年齢的にさまざまな場面での“介護”が必要になってきています。大変なのでは?と想像しましたが、松尾さんからは意外な答えが返ってきました。

「お世話させてくれてありがとう!という気持ちです。リンパ腫が見つかって、1年持たないかもしれないと思っていたので、老いていく姿を見られるのがうれしいんです。耳が遠くなって、目もだんだん見えなくなって、オスワリもできなくなって…。そんなペピを見られると思っていなかったので。夜鳴きや徘徊がないから言えるのかもしれませんが、一日に何度かお尻を洗わなければいけないのも、お水を飲んだあとポタポタ垂らしているのを拭くのも、階段を上がるときお尻を支えてサポートしてあげるのも、全部楽しいです!」(松尾さん)

 松尾さん自身、「こんな風に思えるとは想像していなかった」と言いますが、その言葉と表情からは、ペピおばあちゃんが愛おしくてたまらないことが伝わってきました。

「最初から大好きだったけど、年々好きが止まらなくなっていて、こんなことってあるんだなと。愛しさがあふれ出しています(笑)」

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