築100年超なのに人気物件、アパート「白亜荘」の歴史とは 「時代にもまれ奇跡的に生き残った」

樺山 聡 樺山 聡

 まるでそこだけ時が止まったかのようなレトロな建物が京都大(京都市左京区)のすぐ近くにある。「白亜荘」という何とも神秘的な響きの2階建て木造アパートは今も現役。一般居住者だけでなく、個性的な出版社や古書店が入居している。この建物がまとう不思議な魅力に引かれた人々が来歴を調べた。すると元々は教会の寄宿舎で、100年以上の歴史を持つことが分かった。知られざる京都の「近代建築」の世紀を超えた歩みが姿を現しつつある。

 約150坪の敷地に立つ白亜荘。玄関を入るとすぐの場所には、いすが3脚置かれ、明治・大正期の学生寮の趣が漂う。昼間でも薄暗い廊下を進むと両側に個室の扉が並ぶ。1階には10室と、共用部分として台所や洗面所がある。階段は2カ所にある。2階には個室13室。個室の広さは4畳半~6畳で、家賃は2万円台という。所有者によると「空き室が出るとすぐに埋まる」(所有者)そうだ。

 その歴史について、奈良市で設計事務所を経営する永田麻由子さん(43)たちが調べた。永田さんは昨年春から、歴史的建造物の保存活用に取り組む人材を育成するための「京都市文化財マネージャー育成講座」で同じ班の4人とともに白亜荘に注目し、調査の結果を報告書にまとめた。

 白亜荘を所有する資産管理会社に照会したところ、1918(大正7)年の登記簿が残されており、教会の学生寄宿舎であることが記載されていた。「すぐ近くにあった吉田教会の付属施設として使われていたのだろう」と推定された。

 今は移転して別の場所にある吉田教会の牧師に聞き取りもする中で、女性市民団体「京都YWCA」が27(昭和2)年から女子学生の寮として借り受けたことが分かった。戦前の36(昭和11)年に個人所有へと移り、その頃に寮からアパート「白亜荘」と移り変わったとみられる。

 第二次世界大戦下で吉田教会と「白亜荘」は別々の道を歩む。教会の土地と建物は44年に京都市に買い上げられ、解体された。白亜荘は民間所有のためか生き残り、2013年に現在の資産管理会社所有となった。「時代の波にもまれながら白亜荘は奇跡的に生き残った」と永田さんは話す。

 白亜荘には「二十歳の原点」(新潮文庫)で知られる高野悦子も訪れたようだ。立命館大の学生だった高野は学生運動が盛んだった69年に自殺。残された日記が「二十歳の原点」として出版され、ベストセラーになった。白亜荘に住んでいた友人の証言が、高野の足取りを追ったホームページ「高野悦子『二十歳の原点』案内」に掲載されているのを永田さんたちの「調査班」が確認した。

 設計者も追跡した。

 白亜荘の建築様式が、京滋に多くの建物を残した米国出身の建築家ウィリアム・メレル・ヴォーリズ(1880~64年)の作風をうかがわせたため、永田さんが昨年8月に大阪芸術大の山形政昭教授(建築史)に現地視察を依頼。その後、山形教授が大量に残るヴォーリズの設計図と照合したところ、かなりの類似点が確認されたという。山形教授は「現存例が少ないヴォーリズの初期作品で、用途もほぼ変わっていない点で希少」と評価する。

 現在の白亜荘には、桑原武夫が初代会長を務めた「現代風俗研究会」の事務局があるほか、復刻を中心に手掛ける出版社「三人社」や、山の本を主に扱う「軟弱古書店」も入り、新たな空間として生き続けている。白亜荘を所有する資産管理会社の親会社である不動産会社「ルームマーケット」(左京区)の平野準社長(46)は「歴史的な近代建築や町家が次々と取り壊されていく中、一定の収益を上げながら存続できることを証明するためにも長く残していきたい」と話す。

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