大阪にゾンビ先生発見! 大学でゾンビを教える研究者には「鬼滅の刃」も「ジョーカー」もゾンビに見える

黒川 裕生 黒川 裕生

大阪に、ゾンビ先生がいる。

2019年12月、大阪の映画館「シネ・リーブル梅田」で開かれたゾンビ映画のトークイベントに登壇し、ゾンビに詳しい映画評論家と丁々発止のやりとりを繰り広げた謎の女性、福田安佐子さん。聞けば、大学院時代に芸術や現代思想などの視点からゾンビを読み解く研究に取り組み、現在は国際ファッション専門職大学(大阪)の助教として、ゾンビをテーマにした授業を受け持っているという。ゾンビについて話し始めると止まらなくなる福田さんに、ゾンビ研究に足を踏み入れるきっかけなどについて聞いた。

研究に行き詰まり、逃亡先でゾンビと出会う

福田さんは1988年、兵庫県西宮市出身。同志社大学文学部の美学芸術学科で学び、京都大学大学院の修士課程では、主にポストヒューマニズムを研究した。当時の興味の対象は、映画「ブレードランナー」のレプリカントのような「人間に似たものへの差別」だったという。

「でも、やり始めたらこれが全然わからなくて。あまりにもわからないので、修士2年目に留学と称してフランスへ逃げました」

“逃亡先”のストラスブールの書店で偶然見つけたのが、ゾンビを通して現代社会を論じたマキシム・クロンブの「Petite philosophie du zombie(邦題『ゾンビの小哲学』)」。「そういえばゾンビも人間に似ている」と気づいた福田さんは帰国後、指導教官のアドバイスもあって、ゾンビを専門的に研究し始めた。そのままゾンビの奥深い魅力にずぶずぶとハマり今に至る、ということらしい。

「映画で描かれるゾンビは、言うまでもなく大衆のメタファー(隠喩)。ゾンビになった人たちが我々であると同時に、ゾンビと戦う人たちも我々です。善と悪、多数派と少数派、どちらも等価になるところが面白いですね」

「鬼滅の刃」はゾンビの変奏

福田さん曰く、一般的なゾンビ像は大きく3つに分けられるという。カリブ海域の土着信仰ブードゥー教の影響が色濃いゾンビと、ジョージ・A・ロメロ監督が生み出したゾンビ、そして映画「28日後…」などが公開された2002年以降の新しいゾンビだ。

「新しいゾンビは、これまでゆっくり動いていたゾンビが走るのが衝撃をもって受け止められた」と福田さん。ゾンビが高い感染力で広まっていく描写や、価値観が相対的に揺れ動く様子は、近年のSNSの炎上や暴走しがちな正義感のあり方などにもよく似ていると感じるそうだ。

「2019年に大きな話題を呼んだ映画『ジョーカー』も、正義感が揺らぐところや、悪の伝染の仕方が非常にゾンビらしい作品。社会構造や倫理観を絡めて描いているところも、ゾンビ映画の特徴に当てはまります」

ならば、空前のヒットとなっている少年漫画「鬼滅の刃」はどうだろう。あれに出てくる人食いの生き物「鬼」もどこかゾンビっぽく感じられなくもないが…。

「鬼滅はゾンビと吸血鬼ドラキュラ的な要素との、非常によくできたハイブリッドではないでしょうか。主人公の妹・禰豆子(ねずこ)は半分鬼、半分人間という設定で、ゾンビ映画では『ホワイト・ゾンビ』(1932年)を筆頭におなじみの仕掛け。そういう意味では、やはりゾンビの変奏だと見ることもできますね」

「最近はいいゾンビ映画が多く、日本でも『アイアムアヒーロー』や『カメラを止めるな!』などが盛り上がりました」と福田さん。今は4月に日本公開されるジム・ジャームッシュ監督のゾンビ映画「デッド・ドント・ダイ」を心待ちにしながら、ゾンビを題材にした日本初の博士論文を書くことを目標に、現代思想や哲学、芸術などの知識を総動員したゾンビ研究に明け暮れている。

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