40歳という年齢の壁…美容師の場合は? 働き続ける秘訣、話題のサロン経営者に聞く

山本 明 山本 明

多くの仕事には「40歳の壁」という障壁がある、といわれます。頑張り続けてきたつもりだけど、能力、体力、気力的にも、もう限界。周りからも「もう、若くないんだから」といわれるし…。でも、永遠に年を取らないかように働いている人がいるのも事実。その違いはどこにあるのでしょうか。例えば、美容師さんにも40歳を超えたら働けない、というジンクスがあると聞きます。どのようにすれば壁を乗り越えられるのか、聞いてきました。

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厚生労働省が発表している「平成30(2018)年賃金構造基本統計調査」によると、理容・美容師の平均年齢は32.0歳。調査されている129業種の中で一番若くなっています。勤続年数も7.3年となっており、短い部類に入ります。「40歳の壁」の存在は、統計のデータにもあらわれているのかもしれません。長く現役で働き続けるにはなにが必要なのでしょうか。

そこで、自身も美容師として現場に立ち続けるサロンの女性経営者に話を聞きました。

現在38歳で昨年、自身にとって2店舗目となる月額定額制美容院「:ideal(アイディール)」(大阪・靭公園近く)をオープンさせた同店の経営者、北村由華さんです。定額で月に何度でも、カットやカラー、ヘッドスパやシャンプーブローのサービスを受けられる「サブスクリプション制」のサービスで、話題のサロンです。

2児の母でもあるという北村さん。最初のお店は、結婚後の妊娠期間中のつわりがひどく、1人での運営だったので代わりの人がおらず、やむなく閉店。その後、ご主人の仕事の都合などで、東京から大阪に家族で転居、36歳で現在のお店をオープンしました。スタッフは自身を含めて3人といいます。ジンクスの40歳まであと2年という時期…美容師のキャリアについてどのように考えられているのでしょうか。

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―美容師さんのキャリア形成について教えてください。

「一概にはいませんが、たいてい美容師は学校を卒業するとどこかサロンに就職し、30代で独立を考える人が多いように思います。でも、辞める人も多いんです」

―やはり40歳くらいで?

「いえ、もっと早くに辞める人は辞めます。大体学校を卒業して最初の3年が勝負、といわれています。サロンに就職しても、1年目で全体の50%が、3年目までに80%が辞めてしまいます。アパレルやマツエク、事務職や全くの異業種に転職する方もいらっしゃいます」

―3年目までに8割だなんて…。やはり下積みが辛いのでしょうか。

「店によってカリキュラムの違いはありますが、アシスタントからスタートし、テストをクリアしながら、平均2~3年でスタイリストになり、指名を受けるようになるのですが…長時間労働後のレッスンを苦痛に感じてしまう方や、テストになかなか受からない方は仕事を続けるのが苦しくなってくると思います」

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北村さんは「周りは気にせず自分の望むところだけを追っていた」と自身のアシスタント時代を振り返ります。しかし、周りの目を気に病むようなタイプの人にとっては、何年もテストにクリアできない状況が続くのは、辛いかもしれません。

また晴れてスタイリストになったあとも、お客さんの「指名」が取れるかどうかが問題になってくるといいます。

   ◇   ◇

―「指名」って、サロンの予約の時に、あの美容師さんに施術してほしい…とお願いすることですよね。

「指名を何人受けないといけない、といったノルマはほとんどありません。しかし、指名が少ないとどうしてもプレッシャーですし、お給料も少なくなってしまいます。そのプレッシャーを感じることなく自らの技術をいかせる、例えば老人ホームなどでシニアの方たちへの施術を行う福祉美容師や、ウィッグ(かつら)などの毛髪製品の製造業へと転職していく人もいます」

―そういう人たちは、転職して幸せそうですか。

「もちろん、どこでも大変なことはあると思います。でも自分にとって良い環境を選択できれば幸せだと思います」

―一方で、お店に残って管理職になるような方はどのような方ですか。

「技術や売上だけでなく、サロンにとって必要な仕事を率先してできる方ではないでしょうか。でも、優秀な人は独立する方が多いです。美容院はどんどん増えていて、常に美容師は不足している状態でもあるんです」

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―ちなみに美容師さんの勤務時間などはどうなんでしょうか。

「サロンにもよりますが、営業は9時間くらいで、前後に1、2時間…これは準備や、練習の時間ですね」

―立ち続ける仕事の印象もあります。身体が疲れませんか。

「わたしはアシスタント時代は15時間くらいお店にいました。もともと身体が丈夫で楽観的なんです。でも昔よりは疲れたな、と思うこともあります。特に女性は結婚後出産したりすると、フルで勤務するのは難しくなって辞めてしまう人もいます」

―それはもったいない気もしますが…。

「だから、『続けられない』という環境を変えていくべきだと思います。わたしも最初のお店は1人だから継続が難しかった。ですから2店目はオープンの時からスタッフを雇い、1日7時間くらいの勤務からお願いしています」

―それ以外に、ご自身のお店で、働き続けられるような工夫をされていたりしますか。

「サロンでは珍しい『サブスクリプション制』のサービスを展開していますが、一番人気の『basicコース(11,000円/月額)』はスタイリストの指名はできないようにしています。ですので、スタッフも『指名』というプレッシャーから解放されつつ、第一線の現場に立つことができると思います」

―現在お店ではスタッフを募集中ですね。例えば応募者が40歳だとして、年齢は足きりになりますか。

「全く関係ありません。実際に、わたしの知り合いでも40代、50代で現役としてバリバリ切り続けている美容師の知り合いもたくさんいますから。技術と、お客様の望みを聞き取るカウンセリング力、そして下の世代とやっていけるコミュニケーション力があれば、年齢は問題ではありません」

―では最後に、北村さんの考える、長く現役としてキャリアを持続できる、理想の美容師像があれば教えてください。

「美容師は究極的にはお客さんに自信を与えるお仕事だとわたしは思うんです。来店する前よりあとの方が、美しく、自分に自信を持って帰ってほしい。そしてお客様に自信を与えるためには、美容師自身に自信がなければなりません」

「それには技術の研鑽はもちろんですが、例えば自分が50歳になったとして、20歳のお客様の求める髪形を的確につかみ、実現する感性が求められます。『この人ならお願いできる(自分の望みを叶えてくれる)』とお客様が思えるような、説得力が必要です」

「それためには常に新しい情報や文化にアンテナを立て、流行をキャッチしていく必要があります。年齢を重ねると若さや外見上の美しさはある程度失われますが、代わりに経験からくる技術力や安心感をお客様に与えることもできます。だからこそ、自己の感性を常にアップデートしていける人は、ずっと現場で切り続けることができるのではないでしょうか」

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