「不沈艦」と称され、日本マット界に偉大な足跡を残した元プロレスラー、スタン・ハンセンさんが、11月に都内で行われたトークイベントの中で率先して生野菜を食べている姿を目の当たりにした。往年のパワフルなファイトから描いた「肉食」のイメージが覆った。引退から18年。米コロラド州で生活を共にする日本人の妻、ユミ・ハンセンさんに、古希を迎えた夫の食生活や料理の腕前を聞いた。
最初の出合いはスタンさん31歳、ユミさん18歳の時。当時、予備校生だったユミさんは、サインが欲しい友人に誘われて出合ったという。当サイトの取材に「たまたまでした。だから緊張しなくて、その自然さがよかったんじゃないでしょうか。初めは『一緒に映画に行けたら行こうね』という軽いものでした。出合いから39年、結婚して11月で34年になります」と明かす。
ユミさんは大学卒業後、86年春から夫と米国に移住。「結婚当初から主人の前妻の子ども2人の母親になり、その後は息子2人に恵まれました」。4人の子供を育てた。
ミシシッピ州で約7年暮らした後、ユミさんの母が住む神奈川県大和市で約2年、家族で住んだ。スタンさんは「武道館での試合後、横浜から相鉄線に乗り換えて大和に帰る時、さっきまで会場にいた人たちに『なんでハンセンが電車に乗ってるの!?』って驚かれたよ」と懐かしむ。その後は米国に戻り、コロラド、テキサス、再びコロラドに移って現在に至る
ユミさんは心臓外科専門の看護師として働く。多忙な平日は夫が料理を作る。
「私たちはチームとしてのカップル。負担じゃない方が料理を作ります」とユミさん。「主人がよく作る料理は野菜をベースにしたパスタ料理。トマトベースでイタリア風にオリーブオイル、バジル、オレガノを使い、野菜はアンティチョーク、マッシュルーム、ケールなど。アンチョビやガーリックも入れて。グルメでしょ」と笑顔を浮かべた。
スタンさんが料理を作るようになったのはここ10年という。還暦を迎える頃だ。ユミさんは「日本の男性の方はどう思われるか分かりませんけど、男性が買い物をしたり、キッチンで料理することが恥ずかしいとか、そういう感覚じゃないんですよね。必要ならやりましょうと。自然なんですよ」と指摘する。
ユミさんは土日に料理。「土曜のブランチは、フローズンの納豆を解凍して、野菜のたっぷり入ったみそ汁。夫は納豆が最初、苦手だったんですけど、息子が食べるのに付き合っているうちに、今では大好きになりました。冷蔵庫にはフレッシュなトマト、キャベツなど生野菜が入っています。アメリカでは野菜でも缶詰を食べることが多いですが、日本の食文化に親しんだことで生野菜を食べるようになりました」
不沈艦は〝草食系〟だった。ユミさんは「コロラドはあまりお魚のない所ですけど、それでも週に2~3回はお魚類。お肉を食べるのはせいぜい週1くらいですかね。肉をたくさんは食べないんですよ。テキサスのチキンフライドステーキも最後に作ったのが何年前だろうという感じです。野菜をたくさん食べます」。スタンさんは「子どもの頃から食事はサラダでスタートしていた。それが(故郷のテキサスでは)典型的なスタイル」と語る。
家事だけではなく、教会を通して週に2度ほどボランティアをし、地元の学校で野球のコーチを務め、毎日ジムに通う。ユミさんは「リタイアしても彼の仕事は自分の体を整えること。そして、もう一つの『仕事』は孫の世話。いいおじいちゃんです(笑)」。スタンさんは「(生まれ変わったら)もう1回、プロレスラーになって日本に来て、ワイフと一緒になりたい」と微笑んだ。
70歳にして健やかな心身を維持する日々には、野菜中心の食事や妻と共に家事を自然に分かち合うライフスタイルがあった。
※主戦場とした全日本プロレスの「オールスター展」が12月28日から来年1月7日まで都内の東急百貨店 渋谷・本館3階で開催される。