なにわの伝統野菜「田辺大根」復活を目指す、地元有志の取り組みとは…12月には販売イベントも

平藤 清刀 平藤 清刀

かつて大阪市南部の田辺一帯で栽培され、全国にも名が知られていた田辺大根(たなべだいこん)。青首大根に押されて一時は市場から姿を消したが、地元の有志が復活に取り組んでいる。来月には田辺大根が販売されるイベントが地元商店街で開かれる予定。この機会に大阪ではぐくまれてきた伝統野菜を味わってみては。

平成の初めは絶滅に近かった

大阪市南部に位置する東住吉区に「田辺」という地域がある。ここを中心に広く栽培されていた、なにわの伝統野菜が「田辺大根」。全体的に白色の円筒のようなかたちで、ずんぐりとした外観が特徴だ。

かつては全国にも名が知れ渡っていたが、1950年ごろにウィルスが蔓延したり害虫の被害を受けたりして激減。宅地開発が進んで農地が減ったこともあって、しだいに青首大根に市場を奪われていった。それでも昭和が終わる頃までは細々と栽培を続ける農家が残っていて、大阪市の農産物品評会にも時折出品されていたという。だが、平成に入ってからは、とうとう姿を消してしまった。

復活の兆し…「田辺大根ふやしたろう会」発足

ところが2000年、大阪府立農林技術センターで試験的に栽培されていることが、田辺地域に住む人たちの知るところとなり、かつての全盛期を知る人たちから「田辺大根を復活させようやないか!」という声があがった。そして有志が集まって「田辺大根ふやしたろう会」が発足した。

現在の世話人のひとり、吉村直樹さんによると「農林技術センターから種を譲り受けて、まずは種を増やすための栽培からはじめた」とのこと。いったん絶滅に近いところまで数を減らしてしまったので、食用に栽培するには種が足りなかったのだ。

9月半ば頃に種まきをすれば、12月には収穫して食べられる。だが「田辺大根ふやしたろう会」では3月に花を咲かせ、さらに5~6月まで待って種を採る。会の発足以来、そうやって地道に種を増やしながら、大阪府内で「栽培してみたい」という人があれば、無償で種を分けてきた。

栽培は難しくなく、プランターやビニール製の袋に土を入れて種を撒けば育つという。区内の小学校でも「地元の伝統野菜なら」ということで広がりを見せ、全校を挙げて「1人1本マイ大根」を謳って栽培に取り組んでいる学校もある。また畑で栽培する農家も少しずつ増えて、東住吉区内を中心に7~8軒の農家が田辺大根を栽培している。

気になる味と食感、手に入れるには?

田辺大根は大きさがまちまちで一定しないそうだが、太さ直径10cm程度、長さ20~30cm程度が基本形といわれている。ナマの田辺大根は、口に入れた瞬間は甘みがあって、しだいに辛みが広がる。あくまで筆者の感想だが、日本酒に合うかもしれない。

加熱すると甘みが増すため、市場に出回っていた時代には、主に煮物にする家庭が多かったという。実は緻密で、田辺大根で煮物をつくったことがある人の話では「1週間煮込んでも形が崩れへんかった」という。また、漬物(とくに甘漬)にもよく加工された。葉にはうぶ毛のようなものがなく、小松菜のような外見といい、葉もおいしく食べられる特徴がある。

農家が栽培するには需要を見込めることが大前提となるが、残念ながら安定した販路がない。そのため、農家ごとに付き合いのある食品スーパーや料理店、漬物を製造する業者へ個別に卸しているのが現状だ。東住吉区内にある一部のスーパーで見かけることはあるが、収穫量が多くないため、いつ店頭に並ぶか分からない。

確実に手に入れるには、毎年12月の第2日曜日、駒川駅前商店街振興組合・通称「ラブリーモール駒川」(大阪府大阪市東住吉区駒川4丁目)で開催される「田辺大根フェスタ」の即売会がねらい目。今年は12月8日に開催される予定で、田辺大根を材料に使った和菓子や漬物も販売される。

現在、栽培農家は堺市、貝塚市、羽曳野市へも広がりつつあるが、安定した供給が見込めるようになるまでには、まだ時間がかかりそうだ。

おすすめニュース

気になるキーワード

新着ニュース