手のひらに超レア級「猫」 小さな本屋さんのブックカバーは「日本一」

樺山 聡 樺山 聡

 03年だから、まだ河原町に店があった頃。全国のブックカバー収集家たちでつくる「書皮友好協会」の会員たちが京都に集まっていた。「書皮」とは中国語でブックカバーを意味するという。会員たちは結成の1984年から毎年1泊2日で集まり、全国のブックカバーから大賞を選んでいた。その記念すべき20回目が京都で開かれ、会員14人が「知られざるブックカバー」を求めて河原町通沿いの書店を巡回したところ、この「猫」を捕まえた。

 「歩き疲れたところで、紙いっぱいに描かれた猫のかわいらしい絵を見て、みんな顔色を変えて本を買い、掛けてもらったカバーに満足げだった」。会員の一人は当時の興奮を語る。

 しかし、翌年の移転で店舗面積は3分の1に縮小し、文庫本の棚は一つに。「今は文庫が売れることはほとんどないから、カバーもまだ結構残っている」と藤野さんは言う。それでも、日本一の栄光に輝いた「猫」のおかげで、近年も雑誌で何度か紹介され、ブックカバーを求めて訪れるお客さんもいるという。

 「この前は千葉県から大学生の男の子が来て。本好きな母親に頼まれて京都旅行のついでに寄ったって。だから、お母さんとその子に1枚ずつあげたんです。その後、千葉が台風でえらいことになって、あの子が元気でいるか心配ですわ」

 米寿が近づいた藤野さんは今も毎日休まず店に立つ。「店ではほとんど売れませんけど、京大や市役所、理容室など書籍や雑誌の配達でもってます。京都は一度付き合いができたら長い。息子と一緒に、まだまだ続けますわ」。創業87年。全国で街の本屋さんは次々と消えているが、ここには、お客さんを引き寄せる「招き猫」がいる。

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