日韓関係が「史上最悪」とも言われているなか、韓国は経済面で苦境に立たされている。サムスン電子の2019年4~6月期決算では、営業利益が6兆6000ウォン(約6000億円)と前年同期に比べ56%減少した。主力の半導体部門で営業利益や71%も減少したのが主因だ。サムスン電子といえば売上高が国内総生産(GDP)の約10%にも到達するという巨大企業。波及効果を考えると同社の業績悪化にとどまらず、半導体市況の悪化は韓国経済全体の大きな打撃になるとの見方が強まっている。
もとより韓国は世界景気の変動に影響を受けやすい。韓国の人口は日本の約半分で、1人当たりGDPは日本の80%ぐらい。単純計算すれば韓国の国内消費は日本の4割ぐらいと考えられる。国内経済の規模が小さい分、輸出で稼ぐ構図は日本よりも顕著というわけだ。主力の貿易相手国は圧倒的に中国だ。17年には輸出のおよそ4分の1が対中国。輸入の相手も2割強が中国だ。このため米中貿易摩擦の影響が、中国よりも先に顕在化したともいえそうだ。
本来ならば中国で昨年開催するはずだった中国共産党の4中全会(第4回中央委員会全体会議)は依然として日程すら示されず、経済の運営方針も明確に定まらないなかで、米中貿易摩擦の問題は結局長引くとの見方は強まっている。そうなると、とにかく人口が巨大な中国は国内需要でなんとか経済を回すことができたとしても、問題は韓国だ。半導体産業の立て直しや、そのための産業構造改革なしには韓国経済は立ち行かなくなるのでは、といった見方が金融市場で浮上してきた。
そんな先行き懸念を映しているのが韓国株安と、韓国の通貨ウォンの下落だ。韓国の総合株価指数(KOSPI)は1900台前半と、約3年ぶりの安値水準に沈んで推移している。昨年1月のピークからみると約4分の3の水準に下落した計算だ。外国為替相場でも1ドル=1210ウォン近辺までウォン安・ドル高が進行。さらに下落の勢いだ。2016年の春先以来ほぼ3年半ぶりの安値水準だ。韓国の株安、通貨安は米欧の投資家が韓国からの投資資金を、急速に引き上げていることを示している。
財閥系の企業が多く、国内資本の厚みが相対的に乏しい韓国にとって、ウォン安は実に曲者なのだ。ソウル五輪を開催した1988年以降、韓国の名目GDPはウォン建てで見れば右肩上がりになっている。だが、これをドルに換算すると、およそ10年周期でマイナス成長局面を迎えていることがわかる(グラフ)。1997年のアジア通貨危機と、2008年のリーマンショックだ。これらの時、韓国は不況の震源地でないにも関わらず、落ち込んだドル建てGDPを回復するのに数年かかる深刻な経済の危機を迎えた。それだけに、前回リーマンショックの約10年後である現在への不安感は特に高まりやすいだろう。
そうした不透明感の中で、政治家が経済への不安から視線を反らすのに「反日」を利用しやすい面はあるのだろう。米中関係の悪化を追いかけるように日韓関係が悪化した、といえば勘ぐりすぎかもしれない。それにしても韓国政府が「反日」の姿勢を強調している間は、政権が自国経済の苦境と真正面から向き合おうとしていないと見ることができそうだ。もし韓国の株価指数に連動するETF(上場投資信託)などへの投資を考えるのなら、韓国政府が反日路線を転換し、しっかりと経済を見据えた政策打ち出したのを確認してからでも遅くはないだろう。