撮影は「猫さま次第」 動物写真家・岩合光昭さんが語る猫写真の極意

京都新聞社 京都新聞社

「世界ネコ歩き」は撮影期間10日

 ―番組「世界ネコ歩き」はどのように作っていますか?

 最初に各国のコーディネーターに猫のいる地域を見つけてもらい、ディレクターが一週間前に行ってその猫に会い、名前、年齢、性別、何を食べるか、恋人がいるか、散歩コースなどを聞きます。コーディネーターのリサーチが2~3カ月前、ディレクターが1週間前に現地入りして、実際の撮影期間は10日間です。

 ―ハプニングも多いのでは。

 予定していた猫が事故に遭い、急遽主役が交代したことがあります。逆に偶然の出会いもあります。たとえばベルギーで撮った、小さな庭の子猫とお母さん。その庭は名所旧跡でも何でもないのですが、ベルギーの空気感、土や壁の色がよく出ていた。猫の視点からその村、街、国が見えてくるような作り方を大切にしています。

 見る人の琴線に触れるものを作りたいのです。この猫かわいいでしょうと見せるのではなくて、作り手の僕たちも「えっ」と驚いたようなものが見せたい。番組を見た人が「猫っていいよね」と感じ、猫の味方になってくれれば、世の中の猫への見方が動いてくる、それを期待して作っているところがあります。

世界的に「サザエさん」のような世界なくなりつつある

 ―猫に優しくない声もあるということですか。

 世界的に、日本でもそうですが、猫は家の中にいるべきだという方向性になっている。だからロケ地を探すのも難しいんです。それがいい悪いではなくて、野良猫が当たり前に存在した、漫画「サザエさん」のような世界はなくなりつつありますね。

 ―水面下の悩みも多いのでは。

 たとえば、自由に見える野良猫も、気候風土の厳しさなどでつらい思いをしていたりもする。そういう猫は目と目が合ったときに「わたしを連れて行って」という顔をする。子猫でもね。そんなときは本当に、抱えて連れていきたくなるんです。後ろ髪を引かれますし、カメラを捨てたくなる瞬間です。もう撮れない、とね。それをこらえて作っています。

 でも楽しいこともたくさんあって、「あのお城は館長が厳しいから撮影許可は無理です」というような場所でも「猫だけ撮らせていただけませんか」と頼み込んだら、「猫と散歩に行くところを撮らせてあげる」とその館長に言われたり。猫が人を結びつけるのです。「何を撮ってる」と現れた怖い顔の人が「お、猫か」と相好を崩したりね。優しい人と会うと猫の表情も変わります。意見や方向性を僕たちが言うのではなくて、番組や写真を見たみなさんご自身が何かを感じてくださればと思っています。

 展覧会は26日まで。一般800円、高大生600円、小中生400円。

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