JR門司駅から歩いてすぐ。北九州市門司区にある「めがねのヨシダ」(吉田清春社長)は、1885年創業の老舗眼鏡店。ここで10年前から“広報部長”を務めているのが、茶トラの「寅矢(とらや)」(オス、推定10歳)だ。飼い主で店長の陣内博紀さん(57)と一緒に、毎日、専用のキャットカーに乗って通勤。昼間は店の奥にある眼鏡の製作ラボで認定眼鏡士の陣内さんと一緒に過ごし、リクエストがあれば店内に出て接客をしている。陣内さんに寅矢と過ごした10年間を語ってもらった。
「猫ちゃんがいるから」とメガネを作る人も
この子が店の裏口に現れたのは2008年11月。まだ生後2ヶ月くらいでした。当時、店の周りにいた野良猫の中に突然現れ、エサをあげるとガツガツ食べ出したんです。1カ月間ほど様子を見ていたのですが、12月半ばのある日、雪が降ってきましてね。それで、私が保護して家へ連れ帰ったんですよ。
今は体重が8キロもあって、ちょっと痩せないといけないくらいですが、その当時はやさぐれていましてね。鼻のあたりは疥癬(かいせん)になり、声はガラガラでした。悲壮感が漂っていてねえ。これはもう、私が保護してあげなければと。それまで犬は飼ったことあったけど、猫を飼うのは初めて。なんの相談もなく急に連れ帰ったものですから、家族はびっくりしていましたけどね(笑)。
その3日後のこと。急に呼吸困難になり、慌てて病院に連れていくと、膿胸(肺に膿みがたまる病気)と診断され、すぐに緊急手術をしてなんとか一命をとりとめました。体が回復してからは、昼間、家には誰もいないので、一緒に店へ連れていくことに。すると、スタッフやお客さんから「かわいい」、「癒される」と人気者になりました。社長に相談して「それなら広報部長を務めてもらおう」ということになったんです。