上り下り不要な1階に住み替えできます エレベーターのない団地が挑む高齢居住者支援

二階 さちえ 二階 さちえ

 建物の4、5階まで上がるとき、多くはエレベーターやエスカレーターを選ぶのではないだろうか。しかし古い団地の上階に住んでいれば自前の足を使うしかない。結構しんどいこの日課は、高齢になれば引っ越しも余儀なくされるほどの問題となる。

 平成30年の住宅・土地統計調査では国内の全住宅数は6242万戸。その43.5%にあたる2334万戸が共同住宅だ。人口の約3割が65歳以上の現在、団地やマンション住まいの高齢者は少なくない。しかし1950年代半ばから70年代半ばにかけて大量につくられ今も現役の共同住宅群のうち、建て替えられていない中層4~5階建のエレベーター設置率は約1割だ。

 住み慣れた土地で暮らし続けたい。同じ建物の1階に住めたら…高齢居住者が直面する住み替え事情の一端を、竣工から数十年を経た首都圏の住宅団地で追った。

 千葉市美浜区の稲毛海岸三丁目団地(以下稲三)は昨年、創立50周年を迎えた。RC5階建27棟・全768戸を擁し、住戸は3DK・48平方メートルから3LDK・66平方メートルまで5タイプある。住棟間隔が広い敷地に豊かな緑が茂り、芝生や花壇はよく手入れされ、遊具が置かれた公園も点在。徒歩圏内に2つの鉄道駅があり、小中学校も近く、夏祭りやお花見など団地主催のイベントも盛んだ。この環境が子育て世代の入居を誘い、6割の居住者に「終の住処に」との意向を持たせる。

 その一方で、典型的な“高経年マンション”であり、65歳以上の居住者が全体の約28%を占める。1968年の竣工以来2度の建替計画が持ち上がるも、一度目はバブル崩壊に見舞われ、二度目は住民の合意形成がかなわなかった。その後は建替ではなく“団地再生”へと舵を切る。稲毛海岸三丁目団地管理組合理事長の久保田 博さんは「築80年までは今の建物でやっていきます」と話す。

 これまでに全住戸の窓サッシと玄関扉の交換、耐震診断、集会所の改修やバリアフリー化などを行なってきた。しかしエレベーター設置は住民合意が得られない。1、2階世帯にメリットがないからだ。

 そこで着手したのが、空き住戸を使った団地内住み替えのしくみづくり。管理を委託する日本総合住生活株式会社(JS)と連携して、昨年から取り組んでいる。JSはUR都市機構が全国に供給する共同住宅を管理し、施設の管理サービスや建設運営のほか多世代コミュニティ形成の支援も行なってきた企業だ。

 空き家の活用で、稲三・JSコンビには実績がある。2017年、高齢化に歯止めをかけ多世代コミュニティを維持するために、空いた住戸をリノベーションし若年層向けの『DIY賃貸物件』に変えて貸し出すプロジェクトを開始。団地再生事業の一環としてJSが所有者となり“原状回復不要でお値頃な賃貸”を実現した。現在は7戸に若者が入居し、しゃれた内装デザインと相まって空き待ちが出る人気だという。

 高齢者の団地内住み替えはこの応用だ。1階に空きが出たところで、高齢者または足などの障害で階段が負担になり住み替えを希望する上階居住者に、移ってもらう。空き住戸の買取はJS・リコーリース(株)が行ない、現時点で十数戸がストックされてきたが、この6月には管理組合も法人格を取得し、買取・所有が可能になった。一般の不動産仲介を通さないことで、住み替えを希望する居住者のニーズに団地内部で直接こたえることができる。管理組合には居住者の年齢や身体状況、家族構成といった個人情報が集まるため、外部の管理会社では難しいこまやかな気配りのほか「緊急性への対応、複数の住み替え希望者が出た際の優先判断などもできます」と久保田理事長。

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