上り下り不要な1階に住み替えできます エレベーターのない団地が挑む高齢居住者支援

二階 さちえ 二階 さちえ

 昨年末、管理組合は全世帯を対象に住み替えに関するアンケートを実施した。大多数は今のままでよいと答えたが、「5~10年たったら相談したい」という回答も複数あり、さらに近日中に下階に住み替えたい、広い住戸と交換したいとの希望が数件出た。

 この結果を受けて管理組合とJSは希望者と面談を行ない、足に障害を持つ家族がいる5階住戸の世帯が、住み替え第1号として1階に移ることになった。その後も、両親と息子それぞれが別住戸に住む家族が親の高齢化を理由に二世帯居住を望み、広めの空き住戸への住み替えが決まっている。すべり出しは順調だ。

 高齢者支援ではソフト面も重要だ。『稲三サポートの会』は、区の補助金を受けて住民25人が運営する支援グループ。1時間500円、その後は30分ごとに250円を利用者から受け取る有償ボランティアで、買い物や病院への付き添い、ゴミ出しや力仕事など十数項目の支援を担う。昨年2月の発足から半年で約280件の利用があった。

 住民主体で支援に取り組む根底には、大規模改修時のある成功体験がある。窓サッシの交換など住戸内立ち入りが必要な工事を拒んだ居住者を住民グループが手助けし、100%改修を達成。当時『工事支援隊』と呼ばれたその組織が、改修終了とともに高齢者の生活を支えるサポートグループへと進化した。

 とはいえ、高齢者は支援を受けるだけの存在ではない。

 稲三には建築修繕・駐車場管理・植栽や花壇の管理・広報といった日常的な自治管理業務があり、その活動は主にリタイヤ組が担っている。一方で平日日中に動きづらい30~50代の住民には、夏祭りなどの行事運営や力仕事といった“青年部”の仕事がまかされる。多世代コミュニティの強みを実感する“お互いさま”の役割分担があるのだ。

 「若い人はイベント時にフットワーク軽く、日常の対応は高齢者、と自治管理の面でいろいろな働き方ができるのがミクストコミュニティの良さですね」稲三に深く関わり、若者向けDIY賃貸プロジェクト支援も担当したJS住生活事業本部の鋤柄さやかさんは語る。ライフステージに合わせて参加できる間口の広いコミュニティは、生きがい創出にもつながっている。

 複数階建物と敷地を共有して長く暮らせば、いつか向き合うことになる物理的問題と支援のニーズ。住民自らがそれに対峙し、慣れ親しんだ住環境への愛着を力に“終の住処”を創造しようとしている。マンション・団地再生の新たなヒントも、ここにはあるだろう。

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