「怠け病だと思った。情けなく誰にも言えなかった」…家にこもり暴れた息子 父の後悔

広畑 千春 広畑 千春

 自宅では、部屋を趣味のもので満たし、自分の世界に入っていた。「情けなかった。自分は『親無き子』で一人で必死でやってきたから、特に。住む家はあるし、親のすねをかじって好きなことだけをして…と許せなかった」。「あれは性分。怠け病だ、と思い込んでいた」。そんな父の態度に息子も反発し、怒鳴り散らし、食ってかかるようになった。

 「このままでは、外で何かしてしまうかもしれない」と感じ、鹿島さんは「簡単な診察だけ」とウソをついて息子を精神病院に入院させた。統合失調症と診断された息子は暴れ、3日間、全身を拘束された。「あのときは本当に追い込まれていて、他に方法がないと思った。でも、拘束されトイレにも行けず、どんなに苦しかっただろう。私は、あの子に消えない傷を与えてしまった…」と、苦しげに言葉を続ける。

 息子が退院しても、どう接していいか分からなかった。息子は機嫌が悪くなると「弁護士を呼べ」と叫んだ。そこで声を掛けた知人の弁護士が偶然、統合失調症の親族がいる人だった。弁護士は、ゆっくりゆっくり、息子の話に耳を傾けた。鹿島さんは初めて、他人に息子のことを話した。「あなただけじゃないよ」といわれ、「本当に、救われた。あの人に出会えなかったら、私も息子を殺めていたかもしれない」と振り返る。

 「今でこそ、心の病は誰でもなりうる病気だといわれるようになったけれど、私の育った時代や息子が引きこもった時代は、偏見も強かったし、そもそも知識すらなかった」と鹿島さん。「事件が起きると、『相談していれば』といわれるが、立場上、会社や社員を守らなければならない。言えば全てを失ってしまう。立場があるからこそ、誰にも言えなかった。とても言えるもんじゃないんです」

 その後、長引く景気低迷で男性は会社をたたみ、しばらくして、精神障害者の家族会に出会った。いま、同じ悩みを持つ家族同士、話をしたり、聞いたり。みんな「育て方が悪かったのか」と苦しみ、「あれがダメだったのか」と後悔していた。そして一歩でも踏み出せるよう、何が必要なのか一緒に探している。息子も、体調の波はあるが、少しずつ、もう一度自分の道を歩みつつある。

 「まさか、自分の息子がこんなことになるなんて、夢にも思わなかった。でも、誰でも起こりうることだからこそ、小学校からでも幼稚園からでもいい。子どものころから、『心』について学んでほしい。そして、他人事と思わないでほしい」。鹿島さんの、心からの願いだ。

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