平日の仕事終わり…なぜ彼らは「壁」を登るのか。夜ボルダリングに集う人びと

山本 明 山本 明

 2020年開催の東京オリンピックで正式種目として選ばれた「スポーツ・クライミング」。同種目は3種類に分かれ、その中の1つ「ボルダリング」が人気です。他の2種に比べ登る壁の高さが低いこと、身一つで登れること、始めるときに特に装備や道具は必要ないことなどから、一般人でも挑戦しやすいのでしょう。さらにここ数年、休日だけでなく平日も街中のジムで「夜ボルダリング」を楽しむ人の声や姿を、SNSなどで見かけるようになりました。休日ならまだしも平日仕事終わりの疲れた身体で壁に登る…。正直、文系出身の筆者には及びもつかぬ行為です。いったいどんな人たちが集い、何を求めて夜、壁と対峙するのか。平日夜10時まで営業している、神戸市垂水区の「ノボリバSG」に取材にうかがいました。

 筆者が取材に伺ったのは平日の夕方。まず、オーナーの山口照美さんに同ジムでのボルダリングのルールについて聞きました。ここでは約4メートルほどの壁面にランダムに取り付けられたホールド、と呼ばれる色とりどりの突起を登ります。軽装であれば服は何でも可、足もとはボルダリングシューズにはき替えます。つま先までなめらかにフィットする独特の履き心地で、なれてきたら足指の先でホールドをつかむように登れるようになります。

 同ジムではクライミングの習熟度によって1~7級のグレードに分かれており、それぞれの等級に色が割り当てられています。例えば、5級がピンク色だとしたら、該当級者はピンクのテープが貼られたホールドのみを使って上を目指します。大体7~10個のホールドをつかってゴールできるよう設定されているそう。両手でスタートして一番上のホールドを両手で3秒ほどつかんだまま姿勢を保持できたら、その課題はクリアです。

 山口さんによるとボルダリングに必要なのは必ずしも握力や筋力ではないそう。むしろ、どの石(ホールド)を、身体をどのように動かして登るのかを瞬時に判断し実践する、知的なスポーツなのだそうです。途中で手が離れて落下しても、足もとには、厚いマットレスが敷かれていているので安心です。トライ&エラーをくり返しながらゴールへと至る自分だけの最適解を求める、という一種パズル的な趣きのせいか理系の専門職に就いている人が多いといいます。男女比は8対2くらいで…などと話しているうちに日が暮れてきて、勤め帰りのクライマーが集まってきました。

 「夜ボルダリングをする人は増えています。昨今の働き方改革のせいか、ノー残業デーなどの日などに仕事終わりに来る方が多いように感じます。19時半くらいからぼちぼち来店し、少ない時で5人くらい、多い時は20人くらい」と山口さん。

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