1964年の東京五輪を“意外な場所”から記録した唯一のカメラマン「誰一人やりたがらない」

石井 隼人 石井 隼人
『東京オリンピック』カメラマンの山口益夫さん(撮影・石井隼人)
『東京オリンピック』カメラマンの山口益夫さん(撮影・石井隼人)

 オリンピックが日本で初めて開催されたのは、1964年のこと。それから半世紀を超えた来年2020年、再び東京でオリンピックが開かれる。

 映画監督の市川崑が総監督を務めた『東京オリンピック』(1965)は、当時の東京オリンピックを捉えた公式記録映画。撮影にはニュース映画社などに所属する164名のカメラマンが参加した。その中に、開催から55年経った現在も様々なメディアに取り上げられる貴重な経験をした人物がいる。

 それが産経映画社社長の山口益男さん(86)。オリンピック開催中に、国立競技場のど真ん中で撮影を行った唯一のカメラマンとして知られている。日本で初めて行われたオリンピックでカメラマン冥利に尽きる大抜擢…なのかと思いきや「誰一人やりたがらなかったポジション。私も本当に嫌でした」という。しかも山口さんは、集められたカメラマンの中でも1、2を争う若手だった。一体どういうことなのか。

 当時30代になったばかりの山口さん。若手カメラマンが担う仕事である箱根駅伝の撮影などを経験していたことから、陸上班チームとして招集された。『東京オリンピック』撮影プロジェクト発足当時は、各社のベテランカメラマンたちが国立競技場のど真ん中での撮影に意欲を見せていたというが「それまでの私たちが使用してきた望遠レンズは260ミリ。しかしその撮影で使用する望遠レンズは今まで見たことも使ったこともない800ミリや1,000ミリ。それを使ってベテランの方々がピンボケ映像など撮ったらメンツに関わる。機材が決まった途端、失敗を恐れて誰一人手を挙げなかった」。抜擢ではなく、お鉢が回ってきた形で若手の山口さんが担当することになった。

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