“パリ人肉事件”から38年 加害者・佐川一政の実弟が語る、事件の余波と兄

石井 隼人 石井 隼人
佐川一政の実弟・佐川純氏(撮影・石井隼人)
佐川一政の実弟・佐川純氏(撮影・石井隼人)

 某企業の社長だった父親は、事件をきっかけに辞任。広告代理店に勤めていた純氏は「私の場合は会社が非常に良くしてくれて、福岡から2か月ほどで帰って来たときも快く受け入れてもらえました。その対応は本当にありがたかった」と感謝するが「会社にも取材の申し込みの電話がかかってくるし、兄の帰国後もマスコミに追いかけられた」と報道攻勢は加害者親族にも容赦なかった。親戚縁者で絶縁となった者もいる。

 純氏は現在も独身。「結婚まで話が進みそうになった女性もいます。しかし相手の親に私のことを伝えた途端にNOが出る。それは当然のことです。わざわざ結婚相手に私たちのような兄弟を選びますか?それははなからわかっていることなので、怒っても仕方のない話です」。

 自らの事件についての著書を出版する、事件を再現するかのような映像作品に出演する。世間の良識を逆なでするかのような兄・一政の表立った活動も、激しくバッシングされる理由の一つだ。「もし私が同じ立場ならば表には出ないだろうし、AV出演などよく恥ずかしくないなと思う。今でもやめてほしいと思っています」と嫌悪感を示す。ドキュメンタリーの中には、自身の犯行をグロテスクな絵柄で記した『まんが サガワさん』に対して、純氏が兄・一政を詰問するようなくだりもある。「どうしてあんなことを描いたのか?いまだに描くべきではなかったと私は思っています」。その憤りは変わらない。

 なんの罪もないオランダ人女性ルネ・ハルテベルトさんを殺め、家族の未来を狂わせた元凶。しかし純氏はそんな兄・一政のことをかいがいしく介護している。なぜ受け入れることができたのか。「人を殺めたことは許されることではないし、遺族に対して申し訳ない気持ちもある。しかし自分にとっては愛すべき兄です。なんであれ、愛すべき兄ちゃんだから」。

 現在、兄・一政は誤嚥性肺炎をこじらせて長期入院中だが「2日に1回様子を見に行くと、『いかないで』と離してくれない。そんな姿を見ると、胸に迫るものがある。この野郎とは思えないわけです。もちろん事件後は色々と喧嘩をしました。でもこの歳になってみて、兄と私は幼い頃の仲の良かった兄弟に戻った気がします。はたから見れば達観しすぎていると映るかもしれませんが…」。

 この達観というか、兄・一政に対する割り切った感情はどのように生まれたのだろうか。そして38年も前の事件を掘り起こすかのようなドキュメンタリーの撮影に協力したのは何故なのか。その答えは『カニバ パリ人肉事件 38年目の真実』の中にある。

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