「逃げないで」 飲酒事故で脊髄損傷負った男性 走り去るエンジン音に覚悟した死

広畑 千春 広畑 千春

 ただ、日々の生活では、排泄に支障が出る「膀胱(ぼうこう)直腸障害」のため、毎日4時間近くトイレにこもって便処理をし、血圧の低下で意識が飛びそうになることも。笑顔でいようとすればするほど、現実の苦しさが伝わらないというジレンマも感じる。「一人きりでしんどい時なんか、『あと50年生きるとしたら、18250日こんなことを繰り返して行かないといけないのか』と思ってしまうこともあるんですよ」と打ち明ける。

 だからこそ、願う。「事故をしようと思ってする人はいないと思う。でも、飲酒はもちろん、慣れやほんのわずかな油断が、取り返しのつかないことになる。記憶の片隅でもいい、僕のような人間がいることを知っていてもらえたら」

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 警察庁のまとめでは、2018年中の交通事故件数は約43万件で、死者数は3532人。重傷者数はその10倍近い約3万5千人に上り、重い障害を負う人も少なくない。一方、2010~14年の累計では、飲酒事故は40代の男性が最も多く、週末の深夜帯や日曜日の午後に多く発生しているという。

 これまで1千件以上の交通事故事件に携わってきた兵庫県弁護士会の中島賢二郎弁護士は「事故を起こして逃げる人は飲酒運転が多い印象」とし、「あまり深く考えずに運転したり、周囲も『近くだから大丈夫だろう』と過信したりするのが一番危ない」と警告。さらに「飲酒の有無に関わらず、救護義務を尽くしていれば助かった命や、後遺障害が軽く済むこともある」とし、「気が動転し、怖くなってしまう気持ちは分かるが、勇気をもって通報してほしい」と話している。

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