書棚下の引き出し「開けないで」 書店員の苦悩

金井 かおる 金井 かおる
書棚の下の引き出しは在庫や備品の管理庫(Heiner Witthake/stock.adobe.com)
書棚の下の引き出しは在庫や備品の管理庫(Heiner Witthake/stock.adobe.com)

店員が少ないから?

 書店員さんの話は続きます。

 -お客さんはなぜストッカーを開けてしまうのですか。

 「棚に見当たらない本を探すお客さまがほとんどです。中には美本マニアの方もいらっしゃいます」

 -美本マニア?

 「傷の入っていない本を探す方がいらっしゃいます。店頭に並ぶとどうしても誰かが手に取りますよね。その際に生じるわずかな傷が嫌がられます。常連さんになると、いちいち店員を探すよりこちらの方が早いと、ストッカーを足の甲で引っ掛けて開ける人もいます。何せ売り場に店員が少ないので」

 -書店員さんが少ないんですか。

 「駅前にある大型店舗でも、夕方6時を過ぎると残業代削減のためほとんどの社員と契約社員は帰ります。残るのは店長と社員1人、アルバイト3人など。レジに2人入ると、広いフロアにはスタッフ3人だけということも。限られた人数で、来店客や電話の応対、棚の補充などを行います。お客さまにしたら『店員に在庫を尋ねたいけれどいないから自分で開けた』ということもあろうかと思います」

 -そんな事情とは…。

 「多分どの書店員も同じ感覚だと思いますが、本には並々ならぬ愛着があります。自分の場合、ストッカーの在庫は、野球に例えると、ベンチで出番を待つ子だと思っています。今、どんな子が何人いるか、常に把握しています。面倒を見ている子を勝手に抜き取られたら、連れ去られたようで悲しいです」

背景に長引く出版不況

 人件費削減で思い浮かぶのは、長引く「出版不況」。出版科学研究所(東京)の調査によると、紙の出版物の推定販売金額のピークは1996年の約2兆6564億円。2018年は約1兆2800億円台と約半減に。

 神戸新聞社の社内データベースを検索すると、本紙の記事で「出版不況」が用いられたのは、1997年11月15日の記事。当時、神戸市在住だった作家・筒井康隆さんが講演会で「(若手作家は)出版不況で作品を次々書かないと生活できないため、一作あたりの質が低下している」と出版業界の異変をいち早く指摘していました。

 また大型書店代表は2001年インタビュー記事の中で、「(1店舗に)20人いた正社員を13人に削減。何とかやっている状態。今のところ、人を増やす余裕はない」と語っています。

 再び書店員さんの話に戻ります。

 -声をかけてほしいけれど、人がいない、と。

 「全ての引き出しに『開けないでください』とポスターを張るわけにはいきません。お客さまの良心にゆだねています。フロアの店員数は少ないですが、出来るだけ店員に声をかけてほしいです。検索機で在庫なしと出ても、直前にお取り置きのキャンセルが出たり、版元さんが手持ちで在庫を補充しに来てくれるケースもあります。そういうラッキーなタイミングで本と出合うお客さまはたくさんいらっしゃいます。それもリアル書店で本を買う面白さだと思います」

 本好きのひとりとして言わせてください。「がんばって!街の本屋さんと書店員さん」

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