出版不況のあおりを受け、昔ながらの小規模書店が苦境に立たされる中、新しい「まちの本屋さん」の形を模索する若者がいる。京都市上京区大宮通椹木町上ル、住宅街の一角にある「開風社 待賢ブックセンター」の店主鳥居貴彦さん(31)。「新刊書店でも古本屋でもなく、本屋さん」をコンセプトに、新刊と古書を同じ棚に並べて「意外な出合い」を演出している。
町家を改装した店舗はわずか4・5坪(約15平方メートル)。平台の目立つ場所は売れ筋の新刊本が占めるものの、壁面の棚には古今東西の小説、詩集、評論、漫画が新刊、古本、分け隔てなく並ぶ。古本コーナーを設ける新刊書店はあっても、同じ棚に混在させるのは異例。「話題の新刊本を求めにきたら、絶版になった古本に目が止まる。本好きにとっては、同じ本では」との発想だ。
一角には、絵本や児童書をそろえた小上がりの畳スペースがある。子どもを遊ばせている間に読書する若いお母さんもいるといい、「ネットで手軽に本が買える時代なので、まちの書店は、顔が見えて、地域の人とつながる空間にしたい」と鳥居さんは語る。
なので、こだわりの品ぞろえを持ち味にする「個性派書店」とは違い、来客者の好みに合わせた棚作りを心掛ける。オープンから5カ月余り。客の半数は近所の人といい、取り寄せなどに応じながらニーズを探っている。「水木しげるが好きな小学生がいたので少しそろえてみたら、意外に大人が手に取ることもあって…」。試行錯誤も楽しんでいる。売り上げは、新刊と古本がおよそ半々。「古本があるから、新刊が売れないことはなく、むしろ相乗効果がある」
鳥居さんは長岡京市出身。学生時代、高知市で魅力的な古本屋に出合い、本屋という空間の面白さに目覚めた。卒業後は京都の書店でアルバイトしたり、出版社のミシマ社で営業を担当したりし、業界についての見識を深めた。「本は売ったり、買ったりするのが終着点ではなく、そこから人とつながり、社会とリンクしていける出発点」と捉える。「開風社」の名の通り、いつも玄関を開けっ放しにし、予期せぬ出会いを待っている。
営業は水~土曜の午前11時~午後7時。