最後の全日本フィギュアに挑む大学4年生の思い 高橋大輔への声援を自分の力に

藤井 七菜 藤井 七菜
最後の全日本に挑む同志社大学4年生の笹原景一朗
最後の全日本に挑む同志社大学4年生の笹原景一朗

 さらに、スケート靴(ブーツ)も9月に替えた。ずっと履いていたものは足首の部分が折れて使い物にならない状態だったが、同じモデルがなかなか入荷せず我慢して使っていた。だが、このままではケガをしやすくなるうえ、ジャンプのタイミングも狂ってしまう。そこで思い切って最新の別モデルに変更。「これもすごく足に合っていて、替えて良かったです。うまくいきました」と笹原は笑顔で話す。

 プログラムもこだわった。振付けはプリンスアイスワールドでプロスケーターとして活躍する吉野晃平さんに依頼した。

 「吉野さんとは、彼が選手の頃からずっと仲良くしてもらっています。僕はもともとシャイな方で踊るのが苦手だったけれど、去年吉野さんに初めて振付けてもらってスケートに対する考え方が変わりました。演技を見てもらう楽しさを教えてくれた人です。それで、今年も絶対お願いしたいと決めていました。曲も一緒に探して、吉野さんが勧めてくれたものです」

 SPはコールドプレイの「O “Fly On”」。「今まで出会った人に感謝を伝える」という意味の歌詞で、空のような青をイメージした。フリーはガブリエル・アプリンの「Salvation」という恋愛の曲。情熱的な赤をイメージし、ショートとは対になる作りにした。

 こだわったのは、ジャンプも表現の一部にすることだ。

 「ジャンプでも何かを表現できたらと思っていました。ジャンプのために表現を削るのが嫌だったんで、フリーは助走をわざと短くして、その分コレオシークエンス(さまざまな動きを組み合わせて音楽を表現する要素)に時間を割いてもらいました。そうしたいと吉野さんに言ったら、『ああ、やっとそう言ってくれる選手がいた』って喜んでくれました」

 今季からのルール変更で、男子のフリーは演技時間が30秒短くなってジャンプも1本減となった。しかし、ジャンプ1本には10~15秒あれば十分。他の部分で要素を詰めなくてはいけない。世界を見ても、4回転ジャンプの助走を削れずに音楽を表現する独創的な部分を減らさざるを得ない選手が多くいる。それほど、助走の短縮は容易なことではない。

 4回転ジャンプを跳ばない笹原も「助走が短いとジャンプが難しくなるし、体力的にもきつい」と言う。しかし、音楽を表現し、魅せる楽しさを知った笹原は、ジャンプ優先のプログラムになるのを避けたかった。「慣れてきたので今は苦ではありません。挑戦して良かった」と仕上がりに自信を見せる。

 全日本選手権へ出場するには、近畿選手権、西日本選手権と2つの予選を勝ち抜く必要があった。高橋大輔が4年ぶりに現役復帰し、近畿選手権に出場すると聞いたときは、とっさに出場枠のことが頭をよぎった。ましてや昨年は予選敗退。同じ試合に出ることは楽しみだったが、複雑な思いもあった。

 近畿選手権が始まると、会場は満員。まるで全日本のような盛り上がりを見せた。

 「普段の予選とは全然違いました。あの雰囲気を経験できたので、東日本の選手よりも有利かもしれませんね。高橋選手の滑りを間近で見てやっぱりすごいなって思いましたし、一緒の試合に出られてすごく良い経験ができたと思います」

 しかも、近畿選手権のSPで笹原の滑走順は高橋の直後だった。

 「緊張するかなと思ったんですけど、高橋選手への声援が自分への声援に聞こえてきました。それと、普段は自分の名前がコールされた後に『ガンバー』って声援をいただくんですが、それより前から友達が頑張れーって大きな声で言ってくれて。高橋選手のファンの方たちも皆さん拍手してくれて、泣きそうになりました」

 しかしその演技、笹原はステップで転倒し、あごを6針縫うケガを負った。フリーはあごにガーゼを付けた状態で出場したが、西日本選手権に進出。4週間後の西日本選手権ではフリーで会心の演技を見せ大きくガッツポーズした。合計177・66のシーズンベストで6位。無事、全日本への出場権を勝ち取った。

 本番に向けてSPを重点的に練習した。出場者29人のうち24人しかフリーには進めないためだ。

 「全日本ではショート通過がひとつの壁なんです」と笹原は言う。「今シーズン、ショートがどの試合も良くなくて。最近は曲の中でジャンプの確実性を上げられるように、通し練習を増やしています。普段は跳べるジャンプも曲が鳴ったらいろいろ考えてしまうし、試合になるとますます緊張するので難しいです」。

 西日本選手権を6位で勝ち上がった笹原には余裕があるようにも感じるが、本人の感覚は違っている。

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