-屠蘇散にはどんな生薬が入っているのですか。
「屠蘇散には、桂皮(ケイヒ:クスノキ科のケイの樹皮)、白朮(ビャクジュツ:キク科のオケラの根茎)、桔梗(キキョウ:キキョウ科キキョウの根)、山椒(サンショウ:ミカン科サンショウの成熟果皮)、防風(ボウフウ:セリ科ボウフウの根茎)の5種類の生薬が基本形です。これらの生薬は、氣(生命エネルギー)を巡らすことで身体を温め、胃腸の働きも助けて、ひいては風邪の予防にも効果を発揮するものが入っています。香りの高い芳香性の生薬が多いので、香りをかぐだけでも癒されます。
他に、烏頭(ウズ:キンポウゲ科トリカブトの根)、大黄(ダイオウ:タデ科ダイオウの根茎)、バッカツ(ユリ科サルトリイバラの根茎)なども加えた時代もありましたが、現代の屠蘇散には、間違えて使用すると中毒や下痢を起こすものや、入手の難しい生薬は配剤されていません」
-作り方を教えていただけますか。
「本格的な『お屠蘇』は、大晦日の正午に屠蘇散を井戸の水に浸し、元旦の午前4時に取り出し、温めた日本酒に屠蘇散を浸して、日の出とともに東方に向かって座り、年少者から順に服用していました。
現在では井戸もありませんので、4~5名のご家庭でしたら、ティーパックに入れた3グラムほどの屠蘇散を1~2合ほどの日本酒に半日ほど浸して、その溶出したものを服用してもらいます。子供さんがいるご家庭では、日本酒を減らして本みりんを追加してもらうと良いでしょう。甘党でしたら、日本酒の半分くらいの本みりんを使用すると良いでしょう。本みりんの加減については各人のお好みとなります」
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お屠蘇には健康長寿への願いが込められていて、実際にさまざまな生薬が使われているのですね。お酒を飲める人は飲んでいいのですが、アルコールなのでお酒を飲めない人は、盃に口をつけるだけでもいいそうです。屠蘇散を日本酒と本みりんに浸しておくだけで簡単に作れるので、今年のお正月は、お屠蘇を作ってみてはいかがでしょうか。(神戸新聞特約記者・渡辺陽)
◆新谷卓弘(しんたに・たかひろ)1983年 富山医科薬科大学医学部卒業後、飯塚病院漢方診療科医長、富山医科薬科大学和漢診療学教室医局長、鐘紡記念病院和漢診療科医長、岡山大学医学部講師(東洋医学)、近畿大学東洋医学研究所教授、森ノ宮医療大学保健医療学部鍼灸学科教授を歴任し、2016年9月に埼玉県さいたま市にて「やすらぎ内科」を開院。『心に効く漢方~あなたの「不定愁訴」を解決する』(PHP研究所)、『最新情報 漢方』(NHK出版、共著)、『現代漢方を考える』(薬事日報社、共著)など執筆。