医者と小学6年だった患者の感動の再会が、SNS上で注目を集めている。当時、右膝の軟骨が剥がれる病気を患っていた少年。全身麻酔の手術を担当し、高校2年まで診療に通っていた。終診後、連絡はなかった。しかし数年後、あるうわさを聞く。「先生が膝の手術をした男の子が、うちの大学に通っているらしい…」。再会は、今年2月にあった4回生の臨床実習。少年が手術をきっかけに医師を目指したと聞いて、医師は感激する。「医者冥利に尽きます」
手術した男の子がうちの医学生に!?
兵庫県にある兵庫医科大学整形外科学教室の准教授で、膝関節外科医として働く中山寛さん(47)。2013年、小学6年だった西門舜真さん(23)の手術を担当した。「小さな子だったので、基本的にお母さんと話をしていました。最後の診療の時も、将来の話はしていなかったですけどね」と振り返る。
だがおととし、どこからともなく西門さんの情報が伝わってきた。「兵庫医科大は3回生で整形外科の授業があって、僕も担当しているんです。で、カルテを見直して、この子かぁ、と。いざ授業の日、西門君が熱を出して休んじゃって」と笑う。再会は、今年2月の臨床実習までお預けとなった。
「心配だったのは、膝の調子がどうか(笑)」と中山さん。事前に別の医学生から、陸上部で活躍していると聞いて一安心。実習時はマスク姿だったが、後日食事に誘って顔を見た時、思いが込み上げてきたという。
懐かしい診療室で…
気になるのは、医者を目指した理由。しかもなぜ、兵庫医科大を選んでくれたのか―。
サッカー少年だった西門さんにとって、膝の手術は大きなショックだった。「チーム最年長の年にサッカーができなくて…。落ち込んでいた時、先生が安心させてくれたんです」と西門さん。「またサッカーができるよ」「大丈夫」。優しい声掛けにも救われた。
浪人した際には、学費が免除になる「兵庫県養成医師制度」を知った。卒業後9年間、医師不足の地域で働くもので、魅力を感じた。中山さんとの再会はずっと楽しみにしていたといい、「恩人の先生から直接、教わるのはうれしかったです。懐かしい診察室で、患者の時とは違う感覚で裏側を見られました」と話す。
中山さんにとっても今回の再会は、自信になった。「僕自身、手術や入院の経験がないので、患者さんに寄り添えているか、本当のところは分からないんです。でも、やってきたことが間違ってなかったな、と。逆に教えてもらいました」としみじみ。そして続ける。「将来、一緒に働けたらうれしいなと考えています。患者さんの痛みが分かる医師になってくれると思います」