紀平、宮原、坂本、高橋大輔も…スケート靴の名物職人「ロバさん」が慕われる理由

藤井 七菜 藤井 七菜
真剣な表情でスケート靴のメンテナンスをする田山さん
真剣な表情でスケート靴のメンテナンスをする田山さん

 「2人ともものすごく敏感で、正直僕はほとんど変わってへんでって思う時もある(笑)。でも選手本人がそれで得心するなら、最後まで付き合うよ。梨花は2月末に新しい靴を持ってオランダの試合に行ったんやけど、すでに1足ダメになったらしくて。何でこんなに早く壊れるのか僕らでも分からないんやけど、弱い靴に当たることもあるみたい。3カ月くらいは履けないと試合に向けての計算が立たへんから、つらいところやな」

 一方、坂本花織は全くこだわらないタイプ。「僕が『これでいけるやろ』って言うと花織も『ならこれで行くわ』って(笑)。一度滑ってみて違和感あったら持っておいで、と言ってるけどそれも今までに1回しかない」。これも田山さんの職人技と信頼感がなせる技だ。

 宮原知子もセッティングへのこだわりは少ないが「逆に何も言わなさすぎる。位置が多少気になっても自分の身体を合わせて対応してしまうから。でもそれをやっていると体のどこかに支障が出てくるから、もっと要望を言わなあかん」。そう話す田山さんからは選手への愛情や気遣いが感じられる。

 男子選手の場合はブレード調整にさらにもうひと工夫が必要なこともあるという。トリプルアクセルや4回転ジャンプなど靴に負荷が掛かる大技を何度も練習するため、足首の部分が柔らかくなりやすい。「(田中)刑事もそうなんやけど、内股になるような感じで曲がってきて、ブレードに乗りにくくなる」。曲がった靴に合わせてブレード位置をずらすこともあるのだそう。スケートは常に外側に向かって力をかけるため、ほとんどのスケーターは両足ともに内側に曲がった癖がついていく。「外側に曲がる人はめったにおらんけど、(町田)樹がそうやったな。右足だけ外に倒れてた。多分4回転トーループの時に右のアウトサイドに力入れて踏み切ってたんやろうな」。

 スケート靴の状態からジャンプの跳び方が分かってしまう田山さんだが、自身はフィギュアスケートもアイスホッケーも経験はないというから驚きだ。祖父が大阪府スケート連盟の会長、父がスケート用品店を経営してスケート靴のメンテナンスもしていたことから、手伝う形でこの仕事を始めた。ほとんど知識のない状態から試行錯誤を重ね、選手やコーチたちとコミュニケーションを重ねることで技術を習得してきたのだという。その細やかさや熟練の経験があるからこそトップ選手たちがこぞって依頼するはずなのだが、田山さんは「そもそもスケート専門店が全国的に少ないから。うちはリンク併設店もあるから来やすいし、他の選手から『ここ行っておいで』って言われるみたい」と謙虚だ。

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