熊本・平山温泉「湯処 風月」の“ねこの番頭”たち

九州温泉ねこめぐり

西松 宏 西松 宏

 

ところが3日後、どしゃぶりの雨が降り、母子ともにずぶ濡れに。「するとはなちゃんは、赤ちゃんを1匹ずつ口にくわえ、受付の建物の中まで3匹とも運んできたんです。ここなら安全と思ったんでしょう」

 その1匹がこはくだ。残りの2匹はお客にもらわれていった。ちなみに父ねこのくろは、2カ月後のある日、近くの山に仕掛けられていたイノシシのわなにかかり、前足に大けがを負った状態で敷地内に現れた。毛利さんはすぐに捕まえて病院へ連れていき、前足を切断するなど手を尽くして治療したが、結局、命を救うことはできなかった。「亡くなったくろちゃんのためにも、はなとこはくを幸せにしなければ」と毛利さんは心に決めた。

 日中、にゃあとチビタンは、敷地内をパトロールしていることが多いが、はなとこはく親子は受付の建物内かケージの中で過ごしている。カウンターの上に敷かれたタオルの上で寝ていることもしばしばだ。毛利さんは、4匹の首にそれぞれ別の音の鈴をつけ、どのねこがどこにいるか、すぐに分かるようにしている。こはくだけは外に出ないため、1日1回、リードをつけて周囲を散歩するのが日課だ。

 

 「ねこを撫でて帰ったらいいことがあったけん、また撫でにきた」という男性客や、温泉に入った後、1時間以上もねこたちと遊んで帰る女性客らも。4匹いるからか、「ねこカフェに行かんでいいから嬉しいわ」と喜ばれることもある。お客の間でいま一番人気なのはこはく。人見知りせず、長毛で、撫でるとふわふわの手触りなのがその秘密だ。

 開店当初から働く女性スタッフのひとり、浦田由喜路さんは「私、昔からねこはひっかくイメージがあり、さかりのときに鳴く声も怖くて、受けつけなかったんですよ。でも、にゃあちゃんは私が抱っこしてもおとなしくしているし、ごはん食べるときは『ごーはんっ』って鳴いてねだるんです(笑)。そんな姿が愛らしくて。いまはねこが好きになり、ねこたちと一緒に仕事できるので毎日楽しいです」と顔をほころばせる。浦田さんのようなスタッフは他にもいて、4匹はお客のみならずスタッフたちも笑顔にしている。

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