京都で古来より受け継がれている伝統行事を担う団体が、資材の不足や経費の増大に苦しんでいる。少子高齢化による担い手不足も行事継承の困難さに追い打ちをかける中、関係者は後継者育成の門戸を広げるなど伝統の火を保つ努力を続けている。
毎年10月22日、京都市左京区鞍馬本町一帯は、秋の夜空を焦がす松明[たいまつ]の炎と勇壮なかけ声に包まれる。由岐神社の例祭「鞍馬の火祭」だ。
「サイレイヤ、サイリョウ」のかけ声とともに、地域内を大小の松明を担いだ一行が練り歩き、鞍馬寺の山門下に集結する。平安時代中期の940年、由岐大明神を平安京の内裏から鞍馬に遷した際の故事に由来している。
祭りで若者や子どもが担ぐ大小50~60本の松明はコバノミツバツツジなどの枝(柴)を束ねて板で覆い、白藤の根で縛り、松やにが豊富で明るく燃えるマツ材「じん」を中心に差し込んで作る。最も大きな松明は重さ100キロほどに達する。
地元住民でつくる鞍馬火祭保存会の三宅徳彦会長(76)によると、これらの資材のうち柴は保存会が用意し、フジの根やじんは氏子がそれぞれ準備する。いずれもかつては周辺の里山で調達できたが、戦後の植林や燃料事情による山の環境の変化に加え、松枯れやシカの食害も重なり、確保に苦心しているという。
「私も亀岡市まで探しに行っているし、滋賀県で何とか確保している会員もいる」と三宅さん。保存会が用意する柴はシカの食害対策を施した市有林を借りて育てている。
例年、5千人ほどが訪れる見物客の安全対策を巡る苦労も絶えない。2001年に兵庫県明石市で花火大会の見物客が殺到して転倒し、11人が死亡した事故以来、大規模イベントでの雑踏事故がクローズアップされるようになった。
鞍馬の火祭でも20年ほど前から、訪れた見物客を立ち止まらせず、松明が練り歩く鞍馬街道沿いを歩き続けるよう保存会の役員や警察官、ボランティアらが誘導している。ルート上にある狭い鞍馬川沿いの河原に転落防止の柵や照明を設置し、近年は民間警備員も導入するようになった。警備員は同日に市内で時代祭が実施されるため人が集まりにくい上、「行事が夜間のため、人件費が跳ね上がる」(三宅さん)と費用面の負担にもなっている。
祭りに携わる鞍馬本町の人口は310人(今年7月1日現在)と30年間でほぼ半減した。三宅さんは自身が通った鞍馬小が2025年度末で市原野小に統合されたことも踏まえ、嘆息する。「祭りでは2基の神輿[みこし]を担いで石段を降ろす場面もあるが、担ぎ手の減少で今の形を維持できるかが不安。人口増が見込めない中で今後、どうしていくか…」
◇
伏見区深草で初夏の風物詩となっている藤森神社の駈馬[かけうま]神事も、経費増や後継者育成に苦心する行事の一つだ。同神社は神功皇后によって203年に創建されたと伝わり、毎年5月5日、境内を疾走する馬の上でさまざまな技を披露する駈馬神事で知られる。781年に早良親王が陸奥に出陣する際に同神社で必勝祈願をしたことにちなむ。
「馬の乗り手は、今の乗り手の子どもや孫が興味を持ってくれているので次世代くらいまでは何とかなりそうだが、神事を運営する世話方は高齢化し、後継者探しが必須だ」
藤森神社駈馬保存会の早川宏一会長(61)は現状をこう分析する。保存会のメンバーは乗り手と世話方を合わせて約30人。会員は3月頃から準備で多忙を極めるだけでなく、他の時期にも衣装の虫干しなどの予定が入る。神事当日はゴールデンウイーク期間とも重なるため、「ある程度の時間、拘束されることを嫌う人には難しいのかも知れない」。
物価高騰にも悩む。神事で馬を走らせる参道の整備や参拝者の安全確保のためのくいの設置などにかかる費用は、資材費や人件費の上昇でこれまで以上に費用がかさんでいる。保存会では独自にクラウドファンディング(CF)を実施したり、地元商店への寄付のお願いを強化したりして、資金集めに奔走している。
保存会は地元の小中高生らを招いて乗馬などを体験してもらう講習会を開いている。馬や神事に興味を持ってもらうことで世話方はもちろん、将来的な乗り手不足にも備える。早川さんは「今、祭りに関わっている人たちは心から祭りが好きで続けている。関わる人が増えれば、同じように好きになる人も増えるはず。未来への種まきと思っている」と力を込める。
京都市の指定無形民俗文化財の伝統行事や芸能に助成金を支給する京都市文化観光資源保護財団によると、道具の経年劣化や必要な資材の調達、現役世代を含めた人材の育成は、多くの祭りや行事で普遍的な課題という。担当者は「新型コロナウイルス禍で行事が途切れ、復活できていないケースもある。各団体が長年、受け継いでいる『続けないといけない』という思いに寄り添った支援を続けたい」としている。
同財団は各団体の後継者育成事業に対する助成金の財源とするため、CFで支援を募っている。詳細や受け付けは京都新聞社が運営する「THE KYOTO クラウドファンディング」のサイトから。