「次に雨が降る前に何とかしてほしい」「どこに頼めばいいか分からない」
地震で屋根瓦が被害を受けた住宅に対し、ブルーシートを使った応急処置などで「95万円(税別)」とする見積もりが提示されたことが、SNSで話題になっています。
投稿したのは、熊本県内で特殊伐採事業を行う造園会社「株式会社 山猿」さん(@yamazaru_kumamoto)。被災地で実際に作業にあたる立場から、見積もりの内容に疑問を投げかけました。
一方、投稿には「物価高や資材不足、人件費などを考えれば妥当なのでは」との意見も。災害時の応急処置には、いくらくらいの費用が必要なのでしょうか。
投稿者に、現場の状況や被災者が抱える不安について聞きました。
屋根瓦が広範囲に被害 雨が降れば「二次被害」の恐れ
今回、見積もりを提示された住宅では、地震によって屋根瓦が広範囲にわたり被害を受けていました。
「雨が降れば、雨漏りによって建物内部への二次被害が拡大するおそれがある状態でした」
本格的に屋根を修理できるまで、雨水の侵入を防ぐブルーシートによる応急処置が必要だったといいます。
そこで提示された見積もりの総額が95万円(税別)。ブルーシートについては22枚と記載されていました。
「株式会社 山猿」さんは現場を確認したうえで、「屋根全体を覆うとしても22枚もの数量が必要なのか」と疑問を抱いたそうです。
「ブルーシート張りはあくまで『修理』ではなく、本復旧まで建物を守るための応急処置です。その応急処置に対して95万円(税別)という金額が提示されていたことに、強い違和感を覚えたというのが投稿のきっかけです」
投稿には「ブルーシート高い」「これは酷すぎます」といった声が寄せられた一方、「ブルーシート1万5000円はシート代ではなく作業工賃込みなら妥当では」「最近は物価高で資材不足でもあり、会社側も人件費や材料費などが厳しいのでは」といった意見も寄せられました。
「高いのか安いのかも分からない」被災者が置かれた状況
「株式会社 山猿」さんが今回、特に伝えたかったのは、金額だけの問題ではないといいます。被災地では、修理を必要とする人たちから、こんな声を耳にしているそうです。
「次に雨が降る前に何とかしてほしい」
「どこに頼めばいいか分からない」
「この金額が高いのか安いのかも分からない」
平常時であれば複数の業者から見積もりを取り、価格や作業内容を比較してから依頼先を決めることもできます。しかし、災害直後は事情が異なります。
屋根が壊れ、雨が降れば被害がさらに広がるかもしれない。余震が続くなか、業者に電話をしてもなかなかつながらず、ようやく来てもらえる業者が見つかる…。
「そのような状況では、冷静に相見積もりを取って比較する精神的、時間的な余裕がない方も少なくありません」
投稿に記した「みんな藁(わら)にもすがる思いなのに」という言葉には、そんな被災者への思いが込められていました。
「被災者の方々は、安くしてほしくて業者を探しているのではありません。『これ以上、自分の家を壊したくない』『次の雨から家を守りたい』という切実な思いで助けを求めています」
今回、見積もりを提示された被災者自身も金額に納得しておらず、「30万円くらいと思っていた」と話していたそうです。
「たかがブルーシート張り」ではない 同社試算では約36万円
では、ブルーシートによる応急処置には、実際どれほどの費用がかかるのでしょうか。
「株式会社 山猿」さんは、今回の現場を自社が有料で施工すると仮定した場合、「30万円~35万円程度が妥当」と感じたといいます。
具体的な試算では、材料費4万円、資材運搬費1万5000円、クレーン付きトラックなどの車両費2万円、人件費20万円(8人)、諸経費5万5000円。これに消費税を加え、合計36万3000円ほどになるとしています。
ただし同社が強調するのは、「ブルーシートを張るだけなのだから安くできる」と考えてほしくないという点です。
「『たかがブルーシート張り』と思っていただきたくないです。真夏、足場の悪い高所作業になりますので、これでも良心的な価格と感じております」
屋根の上で行う作業には転落などの危険があり、安全装備や専門的な技術も必要です。当然、資材費だけでなく、人件費や車両費なども発生します。
同社は「災害時だから業者は安く仕事をするべきだ」と考えているわけではないと強調します。
「私たち自身も事業者ですので、仕事として適正な利益をいただかなければ会社も従業員も守れないことは十分理解しています」
そのため、見積書だけを見て他社を一方的に「ぼったくり」と断定する考えもないといいます。
「一概に『10万円だから大金』『20万円だから大金』などと判断してほしくありません。根拠があり、依頼者が納得すれば100万円でも妥当と言えます」
重要なのは金額の大小だけではなく、必要な材料や人員、安全対策、作業時間、危険性、適正な利益を積み上げたうえで、依頼者が納得できる説明がされているかどうかだといいます。
宇城市長にも「応急処置の標準価格」を提案
「株式会社 山猿」さんは8月7日、末松直洋・宇城市長と話す機会があり、被災住宅への応急処置について「一定の価格標準を設ける必要性」を提案したといいます。今回、市長に直接訴えた背景には、高額な見積書を受け取った被災者が宇城市内に住んでいたことがありました。
災害直後、被災者が限られた時間と情報のなかで業者を探し、適正な価格かどうかを自分で判断するのは容易ではありません。
だからこそ、同社は、「災害時だから無料でやるべきだとは思いません。逆に、災害時だから高くても仕方がない、とも思いません」と訴えます。
「必要な材料、必要な人数、必要な安全対策、作業時間、危険性、そして適正な利益。それらをきちんと積み上げた、被災者にも説明できる金額であるべきだと思っています」
そして、投稿で最も伝えたかった思いをこう話しました。
「今、被災地では多くの方が正常な判断をする余裕すらない状態で助けを求めています。だからこそ、こういう時こそ、仕事をする側が普段以上に誠実でなければならない。今回の投稿で一番伝えたかったのは、その一点です」
突然の地震で自宅が被災し、「次の雨までに何とかしたい」と焦るなか、修理や応急処置を誰に頼むのか…。被災者にとって、費用だけではなく、納得できる説明を受けられるかどうかも重要になりそうです。