関西で暮らす48歳のパート勤務の佐藤ゆきえさん(仮名)。会社員の夫と高校生の子どもと3人で暮らしています。近くに住む70歳の義母は認知症と診断され、要介護2の認定を受けました。
ケアマネジャーと相談の上、週1回の訪問介護を利用していますが、日常の通院付き添いや見守り、急な体調変化といったことへの対応は自然とゆきえさんが担うようになりました。仕事を早退したり休んだりする日も増える一方で、夫は「仕事が忙しい」と介護に関わる時間をほとんど取れません。さらに、夫の妹は近くに住んでいるものの、正社員として働いているために日々の手助けを頼みづらい状態です。ゆきえさんは、「妻だから私がやるしかないのだろうか」と、もやもやした気持ちを抱えていました。
しかし、ケアマネジャーとの面談で自身の苦労をこぼしたところ、「介護をゆきえさん一人で抱え込むのはよくないので、一度ご家族みんなで状況を整理してみては」と提案されました。
義父母の介護は、慣習から妻が担う場面も少なくありません。しかし、介護を一人で抱え込む必要はなく、実子である夫や義妹を含めて、家族で役割分担する視点が大切です。分担を考える際のポイントや、仕事と介護を両立するために利用できる介護休暇・介護休業について整理します。
義父母の介護は「妻の役目」と決まっているわけではない
ゆきえさんのように、「妻だから介護をするのが当たり前」と思い込み、義父母の介護を一人で抱え込むケースは少なくありません。しかし、その負担は法律で定められた義務ではなく、家族の慣習や思い込みによる面もあります。まずは、介護を誰が担うべきなのかを整理してみましょう。
◆「妻だから」と一人で抱え込む必要はない
ゆきえさんのように、義父母と血のつながりがない妻が介護を担うことについて、法律上の決まりがあるわけではありません。「妻だから介護をするのは当然」というのは、あくまで慣習や家庭内の思い込みによる面が大きいものです。
それでも、夫が仕事をしている、女性のほうが介護に向いているなどの理由から、妻に負担が集中するケースがあります。「妻だから仕方ない」と考えるのではなく、義父母の子どもである夫や義妹を中心に、家族全体で役割分担を考えることが大切です。
家族で役割分担を考える―夫が担えることは?
義母の介護を家族で分担するにあたって、まず考えたいのは、これまで介護から距離を置いてきた実子である夫が「何を担えるか」を具体的に検討することです。義妹も実子として同じ立場にありますが、日々の介護をゆきえさんに任せ、夫が「仕事があるから」と関わらずにきた状況では、夫が担えることを整理し直すのが第一歩です。
◆「仕事があるから無理」ではなく、「何ならできるか」を話し合う
仕事を理由に介護をすべて断るのではなく、何を担えるか具体的に考えてみるのが大切です。例えば、土日の通院付き添いや休日の見守りなど、それぞれにできる役割を洗い出してください。家族間で分担すべき役割を可視化することで、「妻が全部やる」状態から「家族で少しずつ担う」状態へと変えていきやすくなります。
夫婦や家族だけで話し合うのが難しい場合は、担当のケアマネジャーや地域包括支援センターに相談するのもよいでしょう。家族の話し合いに同席してもらったり、介護の進め方について専門家からアドバイスを受けたりすることもできます。
ゆきえさん夫婦は、義妹も交えて相談し、通院や買い物、食事の準備など、介護に必要な役割を書き出しました。その結果、夫は通院の付き添い、義妹は週末の買い物を担当するようになりました。役割を分担した結果、ゆきえさんが一人で介護を抱え込む状況はなくなりました。
◆介護休暇制度を活用し、仕事との両立を考える
夫が平日に通院の付き添いをするにあたって、ケアマネジャーからすすめられたのは介護休暇の取得でした。
介護休暇は時間単位で取得できるため、通院の付き添いなどで短時間の休みが必要な場合に役立ちます。取得できる日数は、対象家族が1人の場合は年5日、2人以上の場合は年10日までです。また、直前の申請であっても可能なケースが多いです。介護休暇中の給与については法的な定めがないため、企業によって有給・無給が異なります。
介護の体制を整えるなど、まとまった時間を確保したい場合は、介護休業を利用する方法もあります。対象家族1人につき年93日まで、3回を上限に分割して取得することができます。雇用保険に加入し、一定の要件を満たしていれば、休業中は休業前の賃金を基に計算した額の67%に相当する介護休業給付を受けられます。なお、介護休業を取得する場合は、原則として休業開始予定日の2週間前までに勤務先へ申し出てください。
このほか、企業独自の両立支援制度を設けている場合もあります。勤務先の制度を確認し、介護と仕事の両立について上司や人事担当者にも相談してみましょう。
妻だけが我慢する介護にしないために
夫は介護休暇や有給休暇を取得し、義母の通院に付き添うようになりました。義妹も協力してくれるようになり、ゆきえさんは「安心して仕事を続けられるようになった」といいます。
さらに、家族に頼れるようになったことで、ゆきえさんは「一人で抱え込まなくてもいい」と思えるようになり、介護への不安も少しずつ和らいでいきました。
義父母の介護を妻だけが担う必要はありません。実子である夫や義妹も含めて、家族で役割を分担することで、一人にかかる負担を減らせます。
介護は長期化する場合も多いため、早い段階から家族の役割分担や利用できる制度を確認してください。さらに、介護を家族だけで抱え込まず、必要に応じてケアマネジャーや地域包括支援センターなどの専門家にも相談しましょう。
【出典】
e-Gov「民法 第八百七十七条 直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。」
https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
厚生労働省「2025(令和7)年 国民生活基礎調査の概況 Ⅳ 介護の状況」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa25/dl/05.pdf
厚生労働省「介護休業制度-特設サイト」
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/ryouritsu/kaigo/
公共職業安定所(ハローワーク)「介護休業給付の内容及び支給申請手続について」
https://www.hellowork.mhlw.go.jp/doc/kaigokyuugyou.pdf
厚生労働省「介護保険制度について」
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/2gou_leaflet.pdf
厚生労働省「介護サービスの利⽤のしかた」
https://www.mhlw.go.jp/content/11909000/08.pdf
厚生労働省「地域包括ケアシステム」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/chiiki-houkatsu/index.html
厚生労働省「仕事と介護の両立支援 ~両立に向けての具体的ツール~仕事と介護の両立事例」
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000154739.pdf
【監修】勝水健吾(かつみず・けんご)社会福祉士、産業カウンセラー、理学療法士 身体障がい者(HIV感染症)、精神障がい者(双極症Ⅱ型)、セクシャルマイノリティ(ゲイ)の当事者。現在はオンラインカウンセリングサービスを提供する「勇者の部屋」代表。