「これ、誕生日プレゼントに作ったものなんですけど……布染めたり、刺しゅうしたり、素人なりに頑張って作ったので、よかったら見てもらえませんか……?」
そんなコメントとともにXに投稿されたのは、淡く染めた布にクラゲが漂う手作りのトートバッグ。片白ほろ(@psychecolor)さんが、「相方」と呼ぶパートナーの誕生日に贈った一点ものです。
投稿は480万回以上表示され、「きれい」「かわいい」「センスがすごい」「芸術作品みたい」といったコメントが相次ぎました。
ところが、このクラゲたちは、ただ漂っているわけではありません。よく見ると描かれているのは、クラゲが別のクラゲを食べている場面…。片白ほろさんに、題材を選んだ理由や制作の苦労を聞きました。
「ちょっとババロアみたい」の一言からスタート
表面に刺しゅうされているのは、触手に毒を持つアカクラゲが、ミズクラゲを捕食する場面です。
アカクラゲは相方が好きな種類で、題材は初めから決まっていました。方向性が定まったきっかけは、刺しゅうの下絵を見せたときの一言でした。
「『(頭部分が)ちょっとババロアみたいだね』と言われたのが、私のツボに入ってしまって」
ババロアは、ゼラチンで固めて作る洋菓子です。2人ともギャップやシュールなものが好きで、「クラゲと食べ物」の方向に決まりました。
その後、アカクラゲについて調べる中で、餌がミズクラゲだと知ります。片白ほろさん自身もミズクラゲが好きだったため、「捕食」の場面を選びました。
実作業だけなら、染色2日、刺しゅう3日、縫い付け2日、組み立て1日で計1週間程度。ただ、仕事の合間に少しずつ進めたため、制作期間は1年弱に及びました。
最もやり直しが多かったのが、初挑戦だった染色です。
「クラゲの頭の布が小さかったので色がすぐ入ってしまい、いい濃さとグラデーションになるまでやり直しました」
苦労は目に見えない部分にもありました。バッグの内側には、日傘や財布を収納できるポケットが付いているのですが、最初はぶかぶかだったり、入らなかったり、本体のサイズと合わなくなることも…。
「こういうのは、見えないところが一番大変なものですね」
一方、「カバンであること」「耐久性が高く、柄が消えづらいこと」を優先し、あきらめた表現もたくさんあったそうです。ババロアのようなクラゲがお皿に鎮座し、カトラリーが並ぶ図柄も考えましたが、スプーンやフォークが細かすぎて断念しました。
「フェルトを使えば作れるので、耐久性のいらないタペストリーなどで作ってみようかな」
ほかにも、口のまわりから伸びる長い部分(口腕)にシフォンのような柔らかい布を使う案や、絞り染めを生かした和柄風のクラゲで巾着や手ぬぐいを作る案も浮かんでいるそうです。
「壊したらまた作るから」それでも部屋に飾られたバッグ
2人は学生時代からの付き合いで、相方は当時から図鑑や生き物が好きだったといいます。大人になってからは、水族館をメインにした旅行を計画したり、互いに描いたクラゲのイラストを見せ合ったりしてきました。
実はこのバッグ、本当は前年の誕生日プレゼントにと考えていたものでした。
「凝り性が裏目となってまったく完成せず、1年近く待たせたのに、渡したときに喜んでくれる寛大な相方に感謝しています」
同居しているため、相方は制作過程をずっと見ていました。ようやく完成したときにかけられたのは「お疲れ様」という言葉。渡すと、まじまじと眺めてから「かわいいなぁ」と小声でつぶやいたのが聞こえたといいます。
「ああ、頑張ってよかった、と心からうれしくなりました」
「壊したら、また作るから気にしなくていいよ」と伝えたところ、投稿が思いのほか多くの人に見られたこともあってか、相方は「大事なお出かけのとき用にする」と言い、バッグは今、部屋に飾られています。