50代、主婦の松井さん(仮名)は、65歳を迎えた夫の再雇用後の働き方について、漠然とした不安を抱えていました。「定年後も再雇用でバリバリ働いてほしいけれど、働きすぎると年金がカットされるって本当?」そんな疑問を持っていた松井さんは、2026年4月の年金制度改正のニュースを知り、夫婦の老後の働き方と年金について、改めて確認する必要性を感じました。
「人生100年時代」と言われる現代、定年後も仕事を続けるシニア層が当たり前になっています。ただ、65歳以降も働く場合、働き方や収入によっては年金額に影響が出ることがあります。
そんな中、働くシニアのモチベーションを後押しする大きな法改正が、2026年4月に実施されました。それが、働きながら年金を受け取る際のルールである在職老齢年金の基準緩和です。
2026年4月改正!在職老齢年金の基準額が「月65万円」へ
在職老齢年金とは、65歳以上の人が厚生年金に加入しながら働く場合に、「給与+年金」の合計額が一定の基準を超えると、老齢厚生年金の一部または全部が支給停止される仕組みのことで、働きながら受け取る老齢厚生年金の額を調整する制度です。
ここでいう厚生年金は会社員などが働いている間に加入する制度で、老齢厚生年金はその加入実績に応じて老後に受け取る年金です。
この支給停止がスタートするボーダーライン(支給停止基準額)は、改正前(2026年3月まで)で月額51万円でしたが、改正後(2026年4月以降)は月額65万円まで引き上げられました。この引き上げにより、これまでは「働きすぎると年金が減らされるから、勤務時間をセーブしよう」と調整していた人も、働き方を見直しやすくなりました。
この基準をクリアしているかを判断する「給与+年金」とは、加給年金などを除いた、老齢厚生年金の「月額分」(基本月額)と、毎月の標準報酬月額(基本給や各種手当)に直近1年間の賞与を12で割った額を足した「総報酬月額相当額」を加えた金額のことを指します。
なお、支給停止の対象になるのは「老齢厚生年金」のみで、国民年金から支給される「老齢基礎年金」は、在職老齢年金による支給停止の対象にはなりません。
再雇用で働く我が家はどう変わる?
では、実際に夫が定年後に再雇用で働きながら年金をもらう場合、今回の改正で年金の支給額がどのように変わるのか、具体的なモデルケースでシミュレートしてみましょう。
例えば、再雇用で毎月45万円の給与があり、年金の基本月額が15万円で合計額が60万円の場合、改正前では基準額51万円より9万円、オーバーしています。年金の支給停止額はこのオーバーした分の半額を支給停止とするため、4万5000円がカットされ、「給与+年金」の金額は毎月55万5000円となります。
一方、改正後では基準額65万円内に収まっているため、「給与+年金」の金額は60万円のままとなります。なお、実際の手取り額は、ここから税金や社会保険料などを差し引いた金額になります。
では、この改正によって受け取れる老齢厚生年金がどう変わるのか、「給与+年金」の金額の区分ごとに見てみましょう。
▼51万円以下の人
改正前から支給停止の対象ではなかったため、今回の基準額引き上げによる年金額の変化はありません。
▼51万円超〜65万円以下の人
改正前は老齢厚生年金の一部が支給停止されていましたが、改正後は基準額の範囲内に収まるため、支給停止がなくなる可能性があります。
▼65万円を超える人
改正後も、老齢厚生年金の一部または全部が支給停止される可能性があります。ただし、支給停止の計算が始まる基準額が51万円から65万円に上がるため、支給停止額は少なくなる可能性があります。
65歳以降に働くほど年金が増える「在職定時改定」
「基準が上がったのはうれしいけれど、そもそも60代になっても厚生年金保険料を払い続けるのは損ではないの?」と思う方もいるかもしれません。しかし、働くシニアに有利な「在職定時改定」という仕組みがあります。
通常、厚生年金の受給額は退職時に再計算されますが、在職定時改定により、65歳以降70歳未満で厚生年金に加入して働いた実績は、退職を待たずに毎年10月分から老齢厚生年金額に反映されます。
例えば、65歳以降も厚生年金に加入して働き続けた場合、その間に納めた保険料の実績が、翌年以降の老齢厚生年金額に反映されます。
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定年後の収入に悩んでいた松井さんでしたが、今回の法改正を知ったことで、夫が再雇用で働く場合に、給与と年金の合計額によって老齢厚生年金がどう調整されるのかを確認する重要性に気づきました。
2026年4月の法改正は、65歳以降も働きながら年金を受け取る人にとって、働き方を見直すきっかけになります。まずは「ねんきん定期便」などで将来の受給額を確認し、今回の新基準をベースに、夫婦でこれからの働き方や家計のバランスについて話し合ってみてはいかがでしょうか。
【監修】勝水健吾(かつみず・けんご)社会福祉士、産業カウンセラー、理学療法士 身体障がい者(HIV感染症)、精神障がい者(双極症Ⅱ型)、セクシャルマイノリティ(ゲイ)の当事者。現在はオンラインカウンセリングサービスを提供する「勇者の部屋」代表。