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年収800万、身長175センチ以上、長男不可…… 女性の高望み?婚活で条件を並べ立てる本当の理由とは【漫画】

海川 まこと 海川 まこと

現代では、婚活において「女性の高望み」がSNSなどで取り沙汰され、批判が殺到することもあります。しかしそこには、「強欲」「お金持ちになりたい」以外の心理があるのかもしれません。漫画家・井原タクヤさんの作品『運命など存在しないので』第29話は、結婚相談所にて高望みする女性を描いた作品として、X(旧Twitter)で注目を集めています。

結婚相談所に勤める新人婚活アドバイザー・町田のもとには、「MARCH以上の大学卒、年収800万以上、身長175センチ以上」「地方出身者不可、長男も不可、自営業も不可、血液型B型・AB型不可!」など、相手の男性に対してたくさんの条件をあげる女性たちがやってきます。町田は、このような高望み女性が多いのはなぜだろうと考えていました。

とくに町田が疑問視しているのは、男性の身長にこだわる女性が多いことです。「身長なんて結婚生活を送るうえでの相性には関係ないのに…」と考えていると、社長がやってきました。

町田はほかにも、血液型と性格診断の関連性は科学的な根拠はないのに、なぜ結婚相談所の項目にあるのだろうと疑問を抱いていました。これについて社長は、血液型は事業者側にとっては十分合理的な需要があると語ります。しかしその答えを聞けぬまま、町田のもとに新たな相談者がやってきました。

31歳の女性・白山が選んだ結婚相手の条件は、年収800万以上、身長175cm以上、普通体型、A型、都内在住、長男以外、公務員または正社員と、かなり希望が多いです。町田はせめて条件は5つ以下にしないと相手が見つかりにくいと言いますが、白山は「私って高望みなのでしょうか?」とうつむきながら話しました。

白山の慎重な様子をみて、町田の上司・柏木は、高望みに見える人の多くは不安が強い人ではないかと話します。結婚相談所では、連盟を通じて数万人もの相手を検索できます。しかし、選択肢が多すぎるとどう選べばいいか分からないうえ、感情も消耗するため「できるだけ会う前に失敗を避けたい」という心理が働きます。

柏木の考えによると、男性に「頼もしさ」を期待する女性は無意識に身長という指標に託したり、性格も勝手に血液型に当てはめて、本来会わなければ分からない相性を判断しているのではないかと話します。

また年収についても同様で、決して贅沢をしたいわけではなく、単に足りるラインを自分で判断できていない場合もあるそうです。真剣な人ほど不安になりがちですが、その不安を回避するために条件を増やしてしまい、結果として安心から遠ざかってしまいます。

白山は、あらためて相手の条件を考え直してみることにしました。そして白山は、「理想に振り回されてたんじゃなくて、不安に振り回されていたんだ…」「それが分かったらなんか大丈夫な気がしてきた」と笑顔になります。その後、白山は5つまで条件を絞ることに成功しました。

柏木は、現代の人々が結婚を求めるのは「幸せ」ではなく、「不安を終わらせたい」ためではないかと町田に話します。そしてその不安は、「自由」が原因だと考えているようです。

昔は選択肢は少なかったですが、その不自由さで迷いなく進むことができました。しかし、膨大な選択肢と自由が与えられた現代では、誰も正解を教えてはくれません。だからこそ、「正しそうな指標」にすがろうとするのではないかと柏木は話します。

帰宅後、町田は気になっていた映画の配信を見ようとしますが、レビュー評価があまり良くないことに気付きます。町田は見るかどうか迷いますが、柏木の言葉を思い出し自分で見て判断しようと考えるのでした。

読者からは「確かになんで身長にこだわるのか不思議に思ってた」「自由というのも難しい…」などの声が寄せられています。そこで、作者の井原タクヤさんに話を聞きました。

一見「あてにできそうな条件」に安心を求めてしまうのは、決して婚活だけではない

―同作において、もっとも描きたかったテーマを教えてください

このエピソードで描きたかったのは、「条件依存」に陥る人の根底にある「不安回避」の心理です。

婚活では「高望み」という言葉がよく使われますが、実際には欲張りや贅沢をしたいという理由で条件が増える人ばかりではありません。データベースに登録されている何万人もの異性の中から手掛かりなく選ぶことの不安が強いほど、人は「身長」「年収」「血液型」のような、一見「あてにできそうな条件」に安心を求めてしまうのではないでしょうか。

ただ、この心理は婚活だけの話ではないと考えています。映画のレビューや商品の口コミなど、私たちも無意識のうちに日常のあらゆる場面で「正しそうな指標」に頼りながら生きています。婚活という題材を通して、読者の方にも「自分もそういう行動をしているかもしれない」と感じてもらえたら嬉しいと思い、このエピソードを描きました。

―「高望みの正体は不安回避」という言葉にハッとした読者も多いと思います。こういった心理は、普段どのようなところから着想を得ているのでしょうか?

日常や婚活を観察していて、「なぜこの人はこういう行動を取るんだろう」と違和感を覚えたことについて、自分なりに思考を掘り下げることでエピソードが生まれることが多いです。

最初のきっかけは、担当編集者から「なぜ女性は高身長にこだわる人が多いんでしょう?」と聞かれたことでした。これについて考えているうちに、結婚相談所の検索条件に「血液型」があることが気になり始めました。性格や相性との関連を裏付ける十分な科学的根拠があるとは言えないのに、それでも項目として存在している。それは、利用者に需要があるからだと考えられます。

そこで、「条件は、必ずしも精緻なマッチングのために存在しているわけではないのかもしれない」と考えるようになりました。つまり、(マッチングするうえで合理的かはともかく)利用者が安心する条件項目を設けている。その構造を考えていたときに、エーリッヒ・フロムの『自由からの逃走』を思い出しました。

自由は近代人に独立と合理性を与えたが、その一方で個人を不安と孤独に陥れた。この不安が耐えがたいもので、人は自由の重荷から逃れて新しい依存を求めるようになる――その考え方が、自分の中で婚活での「条件依存」の現象とつながり、今回のエピソードが生まれました。

―結婚相談所に訪れる他の人々など、今後の展開も気になる作品でした

結婚相談所には、様々な人が訪れます。一見すると婚活固有の悩みに見えても、その背景には仕事や家族、自己肯定感、そして「自分で選ぶこと」への不安など、現代社会を生きる誰もが抱えうるテーマが隠れています。

4巻以降は、結婚相談所という舞台に描きたいテーマが一歩広がっていきます。婚活をしている人だけの物語ではなく、「人はなぜそう考え、そう行動してしまうのか」という普遍的な問いをより意識して描いていきます。

婚活中の方はもちろん、そうでない方にも「これは自分の話かもしれない」と感じてもらえる作品にできたら嬉しいです。

<井原タクヤさん関連情報>
『運命など存在しないので』第4巻
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