40代、会社員の石井さん(仮名)は最近、深い悩みを抱えていました。それは、要介護になった離れて暮らす70代の父親の通院問題。母親と2人暮らしですが、両親は運転免許を持っていません。さらに父親は足腰が弱り、一人で車に乗り降りしたり、病院の受付まで移動したりすることが難しくなっていました。
月に複数回、石井さんが車を運転して病院へ付き添うため、仕事を休まざるを得ず、貴重な有給休暇はみるみる消化されていきます。「職場にも迷惑がかかるし、このままでは自分のキャリアも共倒れになってしまうかもしれない…」と途方に暮れる日々。そんな石井さんの切実な「誰が付き添うか問題」を救ったのは、ある公的な支援制度でした。
「誰が病院に付き添うか問題」は、家族だけで抱え込まない
親の介護が始まると、真っ先に直面するのが「通院の付き添い」です。働きながら介護をする世代にとって、平日の日中に行われる診察のたびに仕事を調整するのは至難の業。無理を重ねることで、心身の疲弊や介護離職へと追い込まれてしまうケースも少なくありません
しかし、これを家族だけの責任として抱え込む必要はありません。本人に乗り物や車椅子での乗降や、移動などの介助が必要な場合は、介護保険の訪問介護を利用できることがあります。
また、障害のある人は、障害福祉サービスの居宅介護による通院支援を利用できる場合があります。利用できる支援は、本人の状態や移動方法、必要な介助の内容によって異なります。
介護保険で使える「通院等乗降介助」の仕組み
通院等乗降介助とは、いわゆる「介護タクシー」などを利用して病院へ行く際、ホームヘルパー(訪問介護員)から受けられるサポートのことです。
対象となるのは、要介護1〜5の認定を受けており、ケアマネジャーが作成する「ケアプラン」にその必要性が組み込まれている方です(要支援1・2の方は、介護保険の訪問介護としての通院等乗降介助は原則として対象外です。ただし、市区町村の介護予防・日常生活支援総合事業や外出支援事業などで、通院に関する支援を利用できる場合があります)。
具体的なサポート内容は、外出するための着替えや持ち物の準備、自宅から車への移動および乗降時の介助、病院到着後の受付手続きや院内への移動サポートです。
ただし、原則として「病院内での待ち時間」や「診察室での付き添い」は、公的介護保険の対象外となります。院内でのサポートは基本的に、医療機関側のスタッフが対応するというルールがあるためです。
しかし、認知症があって目を離せないなど、どうしても院内介助が必要な場合は、例外的に保険適用が認められるケースや、自費サービスを組み合わせる方法もありますので、まずは担当ケアマネジャーへ相談しましょう。
気になる費用負担の目安は?
「外部のサービスを頼むと、高額になるのでは?」と不安に思うかもしれませんが、公的保険を利用することで自己負担はグッと抑えられます。
例えば、介護タクシーを利用した場合の費用は、主に「タクシーの基本運賃」+「乗降時の介助料」+「車いす等のレンタル料(必要な場合)」で構成されます。
このうち介護保険の適用となるのは「乗降時の介助料」です。自己負担割合が1割の方であれば、乗降介助1回あたりの負担額は「約100円」が目安です。タクシー運賃自体は実費(初乗り約500円など、通常のメーター料金と同等)となるため、利用前に、介護保険の対象となる部分と自己負担になる部分を分けて確認しておくことが大切です。
またタクシーを使わず、公共交通機関や徒歩での通院に同行してもらう場合は、「通院等乗降介助」には当たりません。ただし、歩行や乗り換え、排せつなどについて本人に介助が必要であれば、訪問介護の「身体介護」として、通院時の介助をケアプランに位置付けられる場合があります。
利用できる範囲は、本人の状態や必要な介助の内容によって判断されます。こちらは利用時間に応じた料金設定となっており、1割負担の場合、20分未満で約163円、30分〜1時間未満で約387円程度が目安となります。ヘルパーの交通費は利用者負担となりますが、家族が仕事を休んで付き添わなくても、本人が通院できる可能性が広がる点は、大きなメリットです。
障害福祉サービスにおける通院等介助
要介護の高齢者だけでなく、障害のある方への支援も整備されています。障害福祉サービスにおける「居宅介護(通院等介助)」では、病院への行き帰りだけでなく、官公庁での公的手続きなど、社会生活上不可欠な外出に対するサポートも提供されます。
利用できる支援内容は、利用者の状態や必要性によって異なります。お困りの際は市区町村の障害福祉窓口や、相談支援専門員へ確認してみましょう。
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石井さんは、担当のケアマネジャーに職場の状況と精神的な負担を正直に相談し、この「通院等乗降介助」をケアプランに導入しました。現在では、自宅からの送迎と病院の受付は、ヘルパーに任せています。石井さん自身が仕事を休むのは「月に1回、医師から詳しい診察結果を聞く日」だけになりました。
「親の病院に付き添うだけで、仕事を休まなければならない」という悩みは、制度を賢く使うことで大きく改善できる場合があります。「こんな制度があったのか」と気づいた今が、抱え込んできた負担を担当ケアマネジャーや地域包括支援センターに相談するタイミングかもしれません。
【監修】勝水健吾(かつみず・けんご)社会福祉士、産業カウンセラー、理学療法士 身体障がい者(HIV感染症)、精神障がい者(双極症Ⅱ型)、セクシャルマイノリティ(ゲイ)の当事者。現在はオンラインカウンセリングサービスを提供する「勇者の部屋」代表。