定年後も再雇用で同じ会社に働き続ける63歳のAさんは、ずっと意識してきたことがありました。それは、働きすぎると年金がカットされるため、月給42万円・老齢厚生年金8万円の合計50万円に抑えて働いていました。おかげで年金は全額受け取れていましたが、仕事をセーブしている分、物足りなさも感じていました。
一方でBさんは月給45万円・老齢厚生年金10万円の合計55万円というように、合計で51万円を超えてることが多々あります。その際には、老齢年金制度によって51万円から超過してしまった4万円の半額である2万円分が支給停止となっていました。しかしBさんは仕事の調整が苦手というのもあり、気にせず働き続けていました。
そんな中、 2026年4月に年金がカットされなくなる基準額が65万円に引き上げられることになります。その結果としてBさんは4月から年金が全額もらえるようになったと職場で嬉しそうに話しているのをAさんは聞いてしまいました。
Aさんは、あえて仕事量を抑えて働いてきたのに、気にせず働き続けたBさんが得をしているという事実にモヤモヤした気持ちを抱えます。この制度変更によって、Aさんは損をしてしまったのでしょうか。ファイナンシャルプランナーの橋本ひとみさんに話を聞きました。
Aさんの目的だった「年金を全額受け取る」は達成できている
ーAさんが「損しないよう抑えて働いてきた」選択は、結果的に正解だったといえるのでしょうか?
Aさんの目的だった「年金を全額受け取る」は達成できていたし今後も受け取ることができるため、正解といえます。一方のBさんも、多少カットされても働き続けるという自分なりの判断をしており、今までカットされてしまった年金は戻ってくるわけではないことも事実です。
ーBさんのように、これまでカットされながら働いていた人が4月から全額もらえるようになったのはなぜですか?
在職老齢年金は、月給と老齢厚生年金の合計が一定の基準額を超えると、超えた分の半分だけ年金がカットされる仕組みです。2025年度までその基準は月51万円でしたが、2026年4月から65万円に引き上げられました。
Bさんの合計53万円は旧基準の51万円を2万円超えていたため、その半分の月1万円がカットされていました。新基準の65万円では下回るため、4月以降は全額受け取れるようになり、年間では12万円増額することになります。
ーAさんのようにもともと基準額を下回るよう働き方を調整していた人は、今回の改正で何か変わりますか?
Aさんの合計45万円は旧基準の51万円をすでに下回っていたので、 年金カットは発生していません。そのため今回の改正による直接的な恩恵はありませんが、これからは年金の調整を考慮して働かなくて済むのはプラスといえます。
そして今までも年金を全額受け取れていたことは、Bさんでは実現できなかったことです。この点に目を向けたらAさんの抱える不満は解消されるのではないでしょうか。
◆橋本ひとみ(はしもと・ひとみ)
銀行勤務12年を経て、現在は複数企業の経理代行をおこなう。法人営業や富裕層向け資産運用コンサルティングの経験に加え、ファイナンシャル・プランナー、宅地建物取引士の資格を持つ。