子どもの将来に期待を抱く親は少なくありません。成績が良ければなおさら、「この子なら、もっと上を目指せるかもしれない」と夢を見ることもあるでしょう。しかし、その期待がいつの間にか“親の希望”へと変わってしまうことがあります。
「医学部が当たり前」の学校で膨らんだ期待
東京都在住のDさん(40代)は、息子を医者にしたいという思いを強く抱いていました。
医者家系ではなく、特別なきっかけがあったわけでもありません。ただ、息子は中学受験を経て難関の進学校へ進学。その学校は医学部進学者が多いことで知られ、周囲にも医師家庭の子どもや医学部志望の生徒が少なくなかったのです。
「成績も悪くなかったので、『うちの子も十分目指せるのでは』と思うようになりました」
安定性や社会的信用の高さもあり、「多少お金がかかっても医学部へ進ませたい」という気持ちは徐々に強くなっていきました。
「医者への刷り込み」に励んだ母
そこでDさんは、息子に医療の仕事へ興味を持ってもらおうと動き始めます。
医者が主人公のドラマや医療ドキュメンタリーを一緒に見せ、さらに医療漫画もすすめました。
中でも息子が夢中になったのが『ブラック・ジャック』でした。
リビングで何冊も読み返し、「『ヤング ブラック・ジャック』 も買って!」と熱中する様子を見て、Dさんは手応えを感じていたそうです。Dさんの期待はさらに膨らんでいきました。
「これはうまくいっている気がしました。少しずつ医療に興味を持っているんだと思っていたんです」
医者への導線は順調だと、Dさんは密かに期待を膨らませていました。
「将来、医者になりたい?」に返ってきた意外な答え
ところが、その期待はあっけなく崩れます。
ある日、Dさんは息子に何気なく聞いてみました。
「将来、医者になりたいの?」
すると息子は、驚くほど即答したそうです。
「全然思わない」
Dさんは耳を疑いました。
「あんなに『ブラック・ジャック』読んでいたのに?」
そう聞くと、息子は不思議そうにこう返したといいます。
「それはそれだよ」
Dさんにとっては“医学部への第一歩”のつもりでしたが、息子にとっては純粋な娯楽だったのです。
「完全に私の思い込みでした。こちらは刷り込みのつもりでも、本人は普通に楽しんでいただけでした」
とはいえ、Dさんはまだ諦めてはいません。息子の成績は良く、医学部を目指せる可能性もあるからです。
最近も医療系のニュースを見ると、つい「手先も器用だし、向いてそうだけどね」と口にしてしまうというDさん。息子は、いつものことという様子で軽く聞き流しているのだそうです。