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会社が成果主義を導入 提示された年俸額に満足も…「年俸制だから残業代なしね」の上司の説明に不安 年俸制ではどれだけ働いてもサービス残業ですか?【社労士が解説】

長澤 芳子 長澤 芳子

中堅メーカーに勤める30代のAさんは、来期から導入される成果主義への期待に胸を膨らませていました。提示された年俸額は現在の年収を上回っており、自分の頑張りが評価されたとうれしく感じていたからです。

ところが契約の詳細を確認していた際、上司から「来期からは年俸制だからね。どれだけ残業しても給料は定額だよ。夜遅くまでの対応もすべて年俸に含まれているから」と言われてしまいます。Aさんは「年俸制になれば、どれだけ働いてもすべてサービス残業になってしまうのか?」と不安に襲われました。

上司が言うように、Aさんは今後残業代が支給されなくなってしまうのでしょうか。社会保険労務士 南里有紀事務所の南里有紀さんに話を聞きました。

年俸制は「残業代なし」の免罪符ではない

ー年俸制に切り替わると残業代を支払う義務はなくなるのでしょうか?

それは大きな誤解です。そもそも年俸制とは、従業員の業績や目標達成度を評価して「年単位」で賃金額を決定する制度にすぎません。

日本の労働基準法には「賃金支払五原則」があり、年俸制であっても「毎月1回以上、一定の期日」に支払う義務があります(法24条2項)。そのため、決まった年俸額を12等分するなどして毎月支払うのが一般的です。労働時間に応じた支払いという原則は月給制と同じであり、年俸制だからといって残業代が免除されることはありません。

ー上司の言うように「年俸に残業代が含まれている」とする場合、どんなルールがありますか?

「固定残業代(みなし残業代)」として年俸に含めることは可能ですが、有効と認められるには以下の3つの要件をすべて満たす必要があります。

1つめが合意の明確性です。労働契約の内容として、割増賃金(残業代)が年俸に含まれることが明らかでないといけません。

2つめは明確区分性です。通常の労働時間に対応する賃金と、残業代にあたる部分が明確に区別できている必要があります。

そして3つめは差額支払いの担保です。固定分が法定の割増賃金額を上回っており、超過した場合はその差額を支払うことも労働契約に明記する必要があります。

単に「年俸に残業代を含む」とだけ書かれた曖昧な契約では、法的に認められない可能性が極めて高いです。

ー年俸制の場合、残業代の計算はどうなるのでしょうか。

年俸制にも労働基準法の規定はそのまま適用されるため、残業代の計算方法は月給制と基本的に同じです。

年俸額をもとに1時間あたりの賃金単価を算出し、法定の割増率(時間外労働は125%以上、深夜・休日は別途加算)を乗じて計算します(労働基準法第37条、労働基準法施行規則第19条)。具体的な時間単価の算出方法は就業規則や給与規程の定めによりますが、年間の労働時間を合計して調整するといった方法は認められません。

ー管理職の場合はどうなりますか?

本来、年俸制は裁量権の大きい「管理監督者」や「裁量労働制」で働く人に適した制度です。しかしAさんのように一般の従業員に対して、制度の趣旨を「残業代を支払わなくてよい理由」にすり替えるのは誤りです。

たとえ「課長」などの肩書きがあっても、経営者と一体的な立場にない「名ばかり管理職」であれば、会社は実際の残業時間に基づいて計算した割増賃金を支払う義務があります。

もし、自分の契約や働き方に疑問を感じたら、労働基準監督署などの専門機関に相談することをおすすめします。適正な評価は、正しい法的知識があってこそ守られるものです。

◆南里有紀(なんり・ゆき) 社会保険労務士/社会保険労務士 南里有紀事務所
大阪府吹田市を拠点に活動。労務相談・給与計算・制度設計など、中小企業の人事労務を幅広く支援している。令和8年度、厚生労働省委託事業「仕事と家庭の両立支援プランナー」委嘱。経営と現場をつなぐ伴走型の労務サポートを強みとし、「人が辞めない組織づくり」をテーマに活動。自身も二度の妊娠・出産を経験した2児の母。

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