大学生活とアルバイトの両立に追われるAさん。自分に合わないと感じながらも、「周りに迷惑をかけられない」と無理をして続けてきましたが、ついに心が折れる瞬間がやってきました。スマートフォンの画面に映る店長の名前を見るだけで、動悸が止まらないのです。
もう今すぐにでもバイトを辞めたいと考えるAさんですが、もしも即日で辞めると言ったら、損害賠償を請求されたり働いた分の給料を払ってもらえなかったりするのではないかと考えると、辞めるという言葉が口から出てきません。
では実際に、アルバイトの即日退職は法的に認められるのでしょうか。社会保険労務士法人こころ社労士事務所の香川昌彦さんに聞きました。
原則は2週間前だが「合意」があれば可能
ーバイトを「今日で辞める」という即日退職は、法的に可能なのでしょうか?
民法第627条では、期間の定めのない雇用契約において、退職を申し出てから2週間が経過すれば契約が終了すると定められています。ですから、法律上の原則でいえば即日退職は認められません。
しかし、雇用主である店側が「分かった、今日でいいよ」と合意してくれれば、その日のうちに辞めることは可能です。また、体調不良や精神的な限界など、やむを得ない事由がある場合も、即日の退職が認められることがあります。まずは無理にバックレるのではなく、店側と話し合いを試みることが大切です。
ー「急に辞めたせいで店が回らなくなった」と、損害賠償を請求されることはありますか?
一般的なアルバイトであれば、賠償請求が認められるケースは極めてまれです。そもそも人間は急な病気や事故で休むこともあります。そうした不測の事態を想定して、予備のスタッフを確保したり、フォローできる体制を整えたりしておくのは、経営者や店長の責任だからです。
ただし、代わりが全くいない特殊な仕事、例えば結婚式の司会などを当日になって突然放棄したようなケースでは、実害に対する賠償を求められるリスクがゼロではありません。しかし、通常の飲食店やコンビニの業務であれば、会社の体制不備を棚に上げて学生に責任を転嫁することは、法的に無理があるといえるでしょう。
ー「勝手に辞めるなら今月の給料は払わない」と言われた場合、諦めるしかないのでしょうか?
いいえ、それは明らかに労働基準法違反です。どれほど辞め方が不適切であったとしても、すでに働いた時間に対する賃金は、全額支払わなければならないという「賃金全額払いの原則」があります。
店側が罰金として給料を減額したり、支払いを拒否したりすることは許されません。また、嫌がらせとして「給料を取りに来い」と呼び出す行為も不適切です。もし支払われない場合は、労働基準監督署などの公的機関に相談することをお勧めします。
◆香川昌彦(かがわ・まさひこ) 社会保険労務士/こころ社労士事務所代表
大阪府茨木市を拠点に、就業規則の整備や評価制度の構築、障害者雇用や同一労働同一賃金への対応などを通じて、労使がともに豊かになる職場づくりを力強くサポート。ネットニュース監修や講演実績も豊富でありながら、SNSでは「#ラーメン社労士」として情報発信を行い、親しみやすさも兼ね備えた専門家として信頼を得ている。